ほぼ日の経営“やさしく・つよく・おもしろく”がわかる本|『すみません、ほぼ日の経営』

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すいません、ほぼ日の経営。

すいません、ほぼ日の経営。

2017年3月。株式会社ほぼ日は、ジャスダック市場に上場しました。メルカリのようなユニコーン企業ではないものの、注目度で言えば、決して引けを取っていたとは思えません。

そんなほぼ日の経営を糸井さんの口から語られているのが本書、『すいません、ほぼ日の経営。』です。もうね、タイトルからして糸井さんらしいですよね。

具体的な内容としては、「事業」「人」「組織」「上場」「社長」という5つの視点から書かれています。その点、一般的な企業経営者へのインタビューと変わりません。

ただ、そこは糸井重里さん。要所要所に、“糸井イズム”というか“糸井ワールド”のようなものが散りばめられていました。興味がある方はぜひ、一読をオススメします。

※過去記事(『インターネット的』糸井重里)

珠玉の言葉たち

本稿では、とくに「第一章 ほぼ日と事業」から、感銘を受けた言葉を紹介しています。蛇足になってしまうので、意見や感想はつけていません。

失敗について

―― 失敗してもいいなんて、ちょっと驚きます。

糸井 いまは「誰よりも早く手をつけて成功しなさい」という声の大きい時代です。

 でもそんなに急かされたら、うまくいくものも考え不足や準備不足でダメになって、みんなが倒れてしまいます。もう少し、落ち着いてもいいんじゃないでしょうか。

おもしろさとは

―― おもしろいかどうかは、なにがものさしになるんですか。

糸井 とりたててありません。「おもしろい」は主観ですから。「あれは客観的におもしろかった」ということはありませんよね。

 ただ、おもしろいと思ったからなんでもいいわけではなくて、じぶんがおもしろいと考えた要素はなんなのかを深く考えたり、探ったりしておくことは大切ですね。

難問につっこんでいく

 うちはどちらを選ぶかというと、取れるかどうかわからない四〇点を大事にしているんです。もっと言えば、誰にも解けない一%の難問に、あえてつっこんでいくことが重要だと考えています。

「好き・嫌い」と「いい・悪い」

 「いい」「悪い」で判断するようになると、みんながどんどん同じになります。なぜかというと、「悪い」より「いい」を選ぶからです。だから、「いい」「悪い」で判断しなくていいんです。

 「好き」と言っているものは、やっぱりどこかに魅力の分量がたっぷりとあります。

 ただ、簡単に「好き」「嫌い」を決めるのではなく、「じぶんがなにを好きと言っているのか」ということを、ものすごく考えることが大切です。

 「どうして好きなのか」「どこが好きなのか」を、じぶんと仲間に問い続ける。

 クリエイティブは、ひとりの人間が本気で「好き」「嫌い」の正体を探っていくところから生まれます。これは、忘れてはいけないことだと思っています。

心とマーケティング

 世の中にたくさんあるマーケティングなどの本について、書かれてある通りに実践することに意味があると、ぼくは思っていません。

 なにかで成功した人は、ほかの道を選ばなかったから成功にたどり着いたわけです。たとえば成功した八百屋さんの本があったとして、ほかの人がそのノウハウを読んでも、おそらくブレるだけだと思います。八百屋さんで成功した人は、ほかの道を選ばずにそれだけをやってきたから成功できたわけです。

 けれど、その八百屋さんの成功物語を読んだ人はまだなにも選んでいない。その違いは実はものすごく大きいんです。

市場を創るということ

糸井 ぼくらは農業のように、とにかく毎日続けていくことを大事にしています。

 「市場の創造」といってもいろいろあって、安定感を見せたい創造もあります。変わらないよということを伝えて、安心して買ってくれる人もいますから。

―― まったく新しいものを生み出すことだけが「市場の創造」ではないと。

糸井 両方ですね。せっかく慣れたものを使い続けているわけですから、変わることより、もっとうれしいことがなんなのかを考えることも大事です。

 手帳は「LIFEのBOOK」なのだから、あなたの「LIFE」をより楽しいものにできるよう、充実したものにできるようにするには、なにが必要なのか。そう考えて続けていかなければいけないと思っています。

あくまでも「生活人」として

―― ほぼ日手帳でも「生活のたのしみ展」でも、糸井さんは「LIFE」という言葉をずっと使っています。

糸井 たしかにぼくは、「LIFE」の周りにずっといます。ほぼ日手帳は「LIFEのBOOK」と言っているし、キャッチフレーズは「This is my LIFE」。

 昔からさんざん使われてきた古くさくも思える言葉なのに、大事なところで平気で使い続けてきました。そして歳を重ねるにしたがって、「LIFE」という言葉を使うことにもっと自信が出てきたんです(笑)。

 株式上場して経済系のメディアから取材を受けると、「経済人」としてのコメントを求められます。そういうときも、どうにか「生活人」として話そうとしてきました。生活があって、経済も読書も、そのうえに乗っけていけるものです。

 「ほぼ日」は買いものの場でもありますが、それを楽しむ街でもある。人が幸福に暮らしている状態、あるいは人が幸福に暮らしている場をつくりたい。そして、それに参加していたいと思って、ほぼ日をやってきたんです。

このような糸井さんの姿勢をよく理解していれば、「ほぼ全部ステルスマーケティングの糸井重里『ほぼ日刊イトイ新聞』の憂鬱」なんて表面的な記事は、書けないと思いますよ。

最後に、ちょっと残念だったこと

全編を通して、「ほぼ日×経営」「糸井重里×経営観」みたいなものが垣間見える良書だとは思うのですが……。質問事項と編集の仕方が、ちょっと残念でした

アマゾンレビューでも書かれていましたが、硬い言葉遣いと、ムダをカットする編集では、読者が“糸井ワールド”を十分に体感することはできないと思います。

おそらく、ほぼ日が好きな人も、糸井さんが好きな人も、それぞれがもつ“理屈”ではなく、ふわっとした“雰囲気”が好きなはずです。

そしてそれは、往々にして、“やわらかさ”とか“ムダ(一見、ムダなもののように思えるもの)”から生じているものだと思います。

本書のように「THE・ビジネス書」っぽくまとめてしまうと、それこそおもしろくないものになってしまうのではないでしょうか。もったいないです(意図的にかもしれませんが)。

口直しとして、『インターネット的 』『ほぼ日刊イトイ新聞の本 』をあらためて読みたくなりました。やっぱり、ほぼ日も、糸井さんも、根底にあるのはおもしろさですよ。

※過去記事(『インターネット的』糸井重里)

そういった意味では、糸井さんが書いている「あとがき」は最高でした。まさに「すいません」のオンパレード。ぜひ、読んでみることをオススメします。

すいません、ほぼ日の経営。

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コメント

  1. […] ・記事:ほぼ日の経営“やさしく・つよく・おもしろく”がわかる本|『すみません、ほぼ日の経営』 […]

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