ウンベルト・エーコの小説講座: 若き小説家の告白 (単行本)
何をもってして「クリエイティブ」かという議論はあるものの、クリエイティブな作家というのは、果たしてどのような存在なのでしょうか。
こと現代において、本来的な意味における“新作”というものはないのかもしれません。どんな作品でも、すでに、誰かが似たようなものを発表している可能性がある。
そうなると、クリエイティブという言葉の意味もあやしくなります。創作。誰かがつくったものを、それと知らずにつくったとして、果たしてそれはクリエイティブなのでしょうか。
ともすると、私たちにできることは、「クリエイティブであろうとする」ことだけなのかもしれません。あろうとする姿勢そのものが、唯一、作家としての真摯さといえる。
本書においても、“クリエイティブな作家”についての言及があります。引用してみましょう。
「クリエイティブな作家」とよばれる人々は、自分の作品についての解釈をけっしてあたえてはいけないということです。テクストとは、読者の仕事に一部を任せたがる怠惰な機械なのです。言い換えれば、テクストとは、多様な解釈を引き出すための装置なのです。
「クリエイティブな作家」という視点から、テスクト論にまで派生させているところはさすがという感じです。
たしかに、類似している作品があったとしても、そこからどんな解釈を得るかは読者によってさまざま。そこに、本来的な意味でもクリエイティビティがあるのかもしれません。
目次
1 左から右へと書く(クリエイティブ・ライティングとは何か?
むかしむかし ほか)
2 作者、テクスト、解釈者
3 フィクションの登場人物についての考察(アンナ・カレーニナのために泣くということ
存在論vs.記号論 ほか)
4 極私的リスト(実務的リストと詩的リスト
列挙の修辞 ほか)
著者
エーコ・ウンベルト
1932年、北イタリアのアレッサンドリアに生れる。哲学・中世美学・記号論・メディア論の分野において、世界的知識人として名を知られるようになる。しかるのち、50歳目前にして小説『薔薇の名前』を刊行。この処女作が大ベストセラーとなる。著書の多くが世界各国で翻訳されている。2016年没。
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