フリーランスとして、どのようなキャリアを築いていけばいいのか。あるいは、どのようなキャリアを築いていくべきなのか。
より戦略的なキャリア形成を実現するために。あらかじめ、キャリアについて考えておきたいものです。では、フリーランスには、どのようなキャリアがあるのでしょうか。
自分なりのキャリアについて考える際に、ぜひ読んでおきたい文献があります。それは、北海道大学の准教授である宇田忠司氏の論文、「境界のないキャリア概念の展開と課題」です。
境界のないキャリアとは
境界のないキャリアとは、特定の企業・団体の中で築く安定的なキャリア(オーガニゼーショナル・キャリア)に対をなす、“企業・団体という枠組みを超えた”キャリアのこと。
たとえば、フリーランスや個人事業主はもちろん、さらには起業家、経営者なども、この境界のないキャリア(バウンダリーレス・キャリア)を歩んでいることとなります。
キャリア研究の一環として、すでにバウンダリーレス・キャリアの研究は進んでいます。そのうち、フリーランスのキャリアについて、本論文にヒントが隠されています。
4つのキャリアステージと求められるスキル
本論文では、バウンダリーレス・キャリアに関連する、既存研究のレビューが行われています。全編を通して、非常に示唆に富んでいる内容です。
その中でもとくに着目したいのは、映画産業における個人のキャリアステージと成功するキャリアパターンを提示しているJones(1996)の論文についてです。
その内容は、個人のキャリアステージには、次の4つがあると分類しています。具体的な内容とともに、それぞれに必要なスキルについてもあわせて見ていきましょう。
①初期(Beginning)
初期(Beginning)における「個人の主要な課題」は、産業・職業へのアクセスである。
どの業種でも、フリーランスとして活動する以上、産業や職業へのアクセスを確保しなければなりません。その点、同業種の企業から独立する人は、人脈を活用できるので有利ですね。
その際には、「ゲートキーパー」なる人物を探索する必要があるとされています。ゲートキーパーとはつまり、その産業において、情報をコントロールする立場にある人のことです。
本来であれば、人脈形成を含めた広義の営業活動を通じて、ゲートキーパーを見つける必要があるわけですね。そのため、キャリア初期に求められるスキルは次のとおりです。
キャリア初期に「求められるスキルとコンピテンシー」は、ゲートキーパーの見極め、対人関係スキル、やる気と粘り強さ、である。
②形成期(Crafting)
形成期(Crafting)における「個人の主要な課題」は、産業内でキャリアを形成していく上での必須スキルと自らを取り巻く文化の学習である。
ライターやデザイナーの場合、当然、ライティング技術やデザイン力が問われます。仕事を通じて、そういったスキルを醸成していかなければ、継続的に仕事を得ることはできません。
また、自らを取り巻く文化の学習も欠かせません。業界全体がどのような構造になっているのか、とくに、“川上”から“川下”までの「ビジネスの流れ」を把握しておくことは重要です。
スキルの情勢と業界全体の構造の把握。それらをまとめると、キャリア形成期に求められるスキルは次のようになります。
形成期において「求められるスキルとコンピテンシー」は、技能と役割の学習、文化(規範や価値など)の理解、信頼性とコミットメントの3点である。
③航行期(Navigating)
航行期(Navigating)における「個人の主要な課題」は、評判と人的ネットワークを確立することである。
評判と人的ネットワークは、フリーランスとして事業を拡大していくために必要なものなります。スキルがエンジンなら、評判と人的ネットワークは“両翼”のようなものでしょうか。
好ましい評判が得られると、仕事の継続性につながります。また人的ネットワークは、仕事に拡張性をもたらします。いずれも、フリーランスとしての成長に欠かせません。
一方で、高い評価や評判を得られていなければ、他人に取って代わられてしまいます。また人的ネットワークを構築できなければ、仕事の拡張性にもやがて限界が訪れてしまうでしょう。
「求められるスキルとコンピテンシー」は、評判の確立、人的ネットワークの拡大と維持、というように前述の課題に対応するものとなっている。
④維持期(Maintaining)
維持期(Maintaining)における「個人の主要な課題」は、ネットワーク組織を維持発展させることと、職業と個人的欲求との調和を目指すことである。
この段階に到達すると、フリーランサーは、自己の発達から他者の発達へとシフトすることが求められるとされています。いわゆる“プロテジェ”から“メンター”への移行です。
また、仕事と生活の調和、あるいは統合を実現できるのもこのあたりからです。プライベートの充実が、仕事への活力へとつながり、相乗効果を生むようになります。
職業と個人的欲求の調和に関しては、落合陽一さんが提唱する「Work as Life」という概念と近いかもしれませんね。詳しくは『超AI時代の生存戦略』に記載されています。
「求められるスキルとコンピテンシー」は、他者のメンタリング・支援と、個人的な欲求と職業上の欲求の調和となる。
4つのキャリアステージを意識して活動してみよう
これまでの話をまとめると、「境界のないキャリア概念の展開と課題」に記載されているフリーランスのキャリアステージは以下の4つとなります。
この4つは、Jones(1996)が映画産業をもとに作成したものであるものの、あらゆる業界において参考になるモデルだと思います。
これからフリーランスや個人事業主としてキャリアを築いていこうと考えている方は、ぜひ、参考にしてみてはいかがでしょうか。
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