数ある文章術に関する書籍のなかで、読み返すたびに「う~ん」と唸ってしまうのが本書、『<不良>のための文章術』です。特筆すべきなのは、“書いて稼ぐ”という点に特化していること。つまり、プロのライターになるためのテクニックが盛り沢山なわけです。
こちらの記事では、そんな『<不良>のための文章術』から、とくに感銘を受けた部分を抜粋して紹介しています。これからプロのライターになろうと考えている人も、すでにライターとして活躍されている方も、ぜひ参考にしてみてください。
書いてお金を稼ぐ“プロの文章”とは
プロが書く文章は、貨幣と交換されるためのものです。下世話にいうなら、おカネになる文章。出版社が原稿料を払う気になる文章であり、その文章が掲載されている雑誌や書籍を読者がおカネを出して買う気になる文章です。
おカネになる文章とは、どこかが過剰だったり、何かが欠落しているような文章です。いや、もっとはっきり言いましょう。美しく正しい文章なんて、退屈で眠たくなるだけです。
あらゆる商品やサービスに“価値”があるように、プロの文章にも“価値”が必要です。価値があるからこそ、そこに対価が発生する余地があるわけです。
その点を理解していないと、独りよがりの文章になり兼ねません。ごく基本的なことに思えるかもしれませんが、(付加)価値という点はプロの文章に欠かせないのです。
すべては読者のために
不良(プロ)は自己表現という考えを捨て、読者を楽しませることに徹します。
プロの文章は読者のためにあります。読者ができないことを書き手が代行し、読者に満足を与える文章です。ただし、これは読者に媚びへつらい、おもねり、すり寄り、慰撫する文章を書けという意味ではありません。読者を苛立たせ、不快にし、立腹させる文章もプロの文章です。
アマチュアの文章が「書き手」から発想するなら、「読み手」から発想するのがプロの文章です。「読み手」にとって役に立つ情報は何か、「読み手」は何をいちばん知りたいか、から考えはじめます。
ことプロの文章においては、“書き手”ではなく“読み手”が読み手となります。ですので、書き手はつねに読み手を主体に文章を執筆する必要があります。
そしてそこには、「楽しませる」というサービス精神が必要です。ただ淡々と作業をするだけでは、読者は満足しません。サービス精神を文章に転化させるのです。
「読者は誰か」を徹底的に考える
原稿を書くときいちばん重要なのは、誰に向けて書くかです。読者は誰か。誰に読んでもらおうとするのか。そこのところがはっきりしていないと文章を書きはじめることはできません。
(中略)
誰に向けて書くのかによって、テーマ、使う言葉、使う文字、文体、センテンスの長さ、句読点の打ちかた、改行のしかたなどが決まります。
文章を書くときは、たった一人に向けて書けばいいのです。
(中略)
具体的な誰かを思い浮かべて、その人に向けて書くようなつもりになることです。
主役が読者である以上、書き手は読者のことを知る必要があります。どんな媒体においても、想定読者はいるはずです。その想定読者のことをつねに考えるのです。
年齢、性別、職業、年収、趣味、家族構成など、ペルソナとなる読者について特定し、どのような文章が望ましいかを考えるのがプロの仕事です。
ライターは体力勝負
「作家は体力勝負」というのは、比喩でもシャレでもなく本当のことです。じっと座り続けるには体力がいります。テレビを見たり、本を読んだり、ほかの何かをしたい、という誘惑に負けない精神力がいります。ライターの仕事と作家の仕事は違いますが、しかしこの体力と精神力という点では似ているかもしれません。いくら文章がうまくても、体力と精神力がないとライターの仕事は続きません。
プロのライターは多くの時間を執筆にあてることになります。そのためには、机に向かい続ける体力と精神力が欠かせません。
とくにフリーランスの場合、自己管理は必須要件となります。体調を崩してしまえば、それでチャンスを逃してしまう可能性もあります。すべて自己責任。それがプロなのです。
タイプ別・文章の書き方
ここからは、本書で紹介されているタイプ別の文章テクニックについて紹介します。
書籍コラム(脱稿までのプロセス)
(1)再読する
(2)類書や著者/編者について調べる
(3)書きたいポイントを整理する
(4)実例(引用箇所)を考える
(5)オチを考える
(6)字数・段落・句読点を考える
書籍系のコラムを書く場合の手順です。全体のバランスとして、調査や整理、思考に多くの時間を使っていることがわかります。
取材記事
(1)下調べ
(2)仮説を立てる
(3)題材を並べる
(4)重要なポイントを抽出する
(5)抽出したポイントを並べ替える
(6)展開を考える
次は取材記事です。書籍コラムと同様に、事前準備や思考に多くの時間を費やしています。いい材料を集め、きちんと下ごしらえをしておけば、料理は短時間で終わります。
本の紹介文
・読者のために書く(書き手のために書くのではない)
・取り上げる本のために書く
・読者にその本を薦めるポイントを書く
・バイヤーズガイドとして役に立つように書く
・高いところから見下ろすのではなく、読者と同じか、少し低いぐらいの視線で書く
[鉄則1]キーワードを探す
[鉄則2]著者について調べる
[鉄則3]ポイントを絞って再読する
[鉄則4]メモを取る
[鉄則5]読者へのサービスを考える
こちらは書評ではなく、本の紹介文を書く際のテクニックです。読者のために、文章に付加価値を盛り込むためのさまざまな努力がなされているのがわかります。
グルメ記事
[鉄則1]店名・住所・電話番号・定休日など、データは漏らさず正確に
[鉄則2]どんな客を対象にしているかを明確に
[鉄則3]料理の特徴、味、雰囲気を具体的に
[鉄則4]サービスも重要な要素である
[鉄則5]できるだけ謙虚に
グルメ記事で大事なのは「シズル感」と言われていますが、それを醸成するために必要なのは周辺情報です。「行きたくなる」気持ちにさせる文章が求められます。
町歩き記事
[鉄則1]文章の目的をはっきりさせておく
[鉄則2]整理して考える
[鉄則3]優先順位をつける
[鉄則4]捨てる技術
[鉄則5]できるだけ無味無臭に
[鉄則6]補助線を引く
「補助線」とは文章を引き立てるスパイスのようなものです。対象についてそのまま語るのではなく、別の要素も盛り込むことで、おもしろい文章に仕上がります。
コラム・エッセイ
[鉄則1]正論は書くな
[鉄則2]別の人格を演じよ
[鉄則3]天下国家を論じるな
[鉄則4]好きなことしか書くな
[鉄則5]ゆがんでいても大丈夫
[鉄則6]芸にはこだわるな
[鉄則7]コラム・エッセイは仮説→検証作業
最後はコラム・エッセイの書き方です。得意・不得意がハッキリわかれる分野ではありますが、インパクトをもたせるには上記の点を意識しておく必要があります。
まとめ
本書で書かれているプロの文章とは、芸術としての文章(小説や詩集)とは異なります。書き手の美学ではなく、つねに、読み手にとっての価値を考慮しなければなりません。
その点で言えば、どんな仕事でも同じです。
料理人は「料理」を、デザイナーは「デザイン」を、不動産の営業マンは「不動産」を、相手に価値として提供しているからこそ、対価を得られているのです。
大切なのは、「誰に」「どんな価値を」提供するのかということです。その問いに対して、文章というツールを用いて応えられる人は、すでにプロであると言えるでしょう。