小説、映画、劇作、マンガ原作など、各種シナリオや脚本の執筆にはさまざまな方法があります。その中でも、とくに多くの作家を悩ませているのが、「あらかじめ構成(プロット)を決めておくべきかどうか」ではないでしょうか。
一般に、構成を決めてから書く人のことを「プロッター」、決めないで書く人のことを「パンツァー」と呼びます。どちらの方法が優れているということはありません。継続的な執筆には、自分に合った方法を採用することが大切です。
もっともパンツァーは、詳細な計画を立てることなく経験と勘(いわゆる才能)で書き進めるのが基本であるため、頭で考えるより実作を重視する一方、プロッターの人は、「どのように構成を作るのか」を知っておく必要があります。
そこで本稿では、小説、映画、劇作、マンガ原作など、各種シナリオや脚本の執筆に活用できる「ストーリー構成の種類」について、代表的なものを4つ紹介しています。ぜひ、創作を進める際のヒントとして活用してみてください。
☆ストーリー構成の4種類
ストーリーの構成には、主に次のようなものがあります。
・三幕構成(序破急):シド・フィールド(『素晴らしい映画を書く』)
・四部構成:ラリー:ブルックス(『工学的ストーリー創作入門』)
・十個の要素:K.M.ワイランド(『ストラクチャーから書く小説再入門』)
・二十二個の要素:ジョン・トゥルービー(『ストーリーの解剖学』)※番外編
・序破急
・起承転結
それぞれの内容は以下の通りです。
「三幕構成」:シド・フィールド(『素晴らしい映画を書くために……』)
「三幕構成」は、映画や戯曲のシナリオでよく用いられている、王道のストーリー構成です。その名のとおり、大きく3つの「幕」で構成されており、それぞれの内容は主に次のようになります(順番はこの限りではありません)。
第一幕:発端(状況設定)→主人公の紹介やドラマの前提を示す
第二幕:中盤(葛藤)→目的達成のために主人公が障害に直面する
第三幕:結末(解決)→主人公の成り行きを含むストーリーの結末へ
また、第一幕と第二幕、第二幕と第三幕のあいだには「プロットポイント」が入ります。プロットポイントとは、ストーリーを新たな方向に展開するきっかけとなる事件やエピソードのことです。プロットポイントによって、物語がスムーズに展開していきます。
「四部構成」:ラリー・ブルックス(『工学的ストーリー創作入門』)
三幕構成のうち、第二幕を前半と後半に分けたものが「四部構成」です。王道である三部構成の「中盤」を2つに分けることによって、中だるみを回避しつつ、物語がどのような展開をしていくのかより詳細に示します。言わば三幕構成の応用です。
パート1:設定→舞台設定、主人公や敵対者の紹介、伏線
パート2:反応→新しい状況への反応、迷い、ためらい、思考
パート3:攻撃→体制を立て直す、障害と戦う、積極的になる
パート4:解決→命をかけてゴールに向かう(勝利、敗北、富や名声、死)
四部構成においても、三幕構成と同様に、パート1とパート2のあいだ、パート3とパード4のあいだに「プロットポイント」が入ります。また、パート2とパート3のあいだには、物語全体の勢いを変える「ミッドポイント」を配置します。
四部構成の細分化
四部構成をさらに細かく見ていくと、以下、9つの要素があるとわかります。ベースは四部構成と同じですが、細分化することによって、それぞれのシーンにどのような内容を含めるべきなのかを概観しておきましょう。
1.フック
2.パート1(設定)
3.プロットポイント1
4.パート2(反応、新たな旅の始まり)
5.ミッドポイント
6.パート3(攻撃、積極的な主人公)
7.プロットポイント2
8.パート4(解決、変化を起こす主人公)
9.エンディング
「十個の要素」:K.M.ワイランド(『ストラクチャーから書く小説再入門』)
四部構成を細分化した「9つの要素」に類似したものとして、K.M.ワイランドは、「十個の要素」を挙げてストーリー構成を説明しています。大きな物語の流れとしては、三幕構成や四部構成と同じです。
1.掴み(フック)
2.第1幕パート1:登場人物の紹介
3.第1幕パート2:危機と舞台設定の紹介
4.プロットポイント1(キー・イベント)
5.第2幕の前半:ピンチポイント1
6.ミッドポイント
7.第2幕の後半:ピンチポイント2
8.第3幕:プロットポイント2
9.クライマックス
10.解決・エンディング
用語が統一されていない分、ストーリー構成としてわかりいいものとはなっていませんが、ベースとしては、三幕構成が土台となっています。そのため、基本的なストーリー構成を踏襲しているものと考えておきましょう。
ちなみに、第2幕にある「ピンチポイント」とは、主人公に与えられる脅威のことです。主に、敵対する人物(敵対者)によって直接的・間接的にもたらされます。ピンチポイントによって、ストーリーに緊迫感が生まれます。
「二十二段階の道程」:ジョン・トゥルービー(『ストーリーの解剖学』)
王道である三幕構成の欠陥(第二幕で苦戦する)を指摘し、より自然なプロットを展開させるために必要な構造上の段階として、ジョン・トゥルービーは、以下「二十二段階の道程」を提唱しています。具体的には、次のような構成です。
1.自己発見、欠陥、欲求
2.亡霊とストーリー・ワールド
3.弱点と欠陥
4.誘因の出来事
5.欲求
6.仲間または仲間たち
7.ライバルおよび(または)謎
8.仲間のふりをしたライバル
9.最初の真実の発見と決断――欲求と動機の変化
10.プラン
11.ライバルのプランとメインの反撃
12.駆動
13.仲間による攻撃
14.擬似的敗北
15.第二の真実の発見と決断――執拗な衝動、欲求と動機の変化
16.観客による真実の発見
17.第三の真実の発見と決断
18.門、ガントレット、死の国への訪問
19.決戦
20.自己発見
21.道徳的決断
22.新たなバランス状態
これら22の段階は、あくまでも“一つの指標である”とされています。つまり、「22」という数字にとらわれることなく、創造性を発揮しながら、自然にストーリーを構成するためにあります。このうち、なくてはならないのが次の7段階です。
1.弱点と欠陥
2.欲求
3.ライバル
4.プラン
5.決戦
6.自己発見
7.新たなバランス状態
<番外編>序破急と起承転結
正確には小説、映画、劇作などのストーリー構成に当てはまるものではないものの、日本でよく使われているものに「序破急」と「起承転結」があります。番外編として、これらの意味と内容についても確認しておきましょう。
・序破急
「序破急」とは、雅楽の楽曲構成上の三区分を指します。無拍子の「序」、ゆるやかな「破」、急テンポな「急」を経て構成されています。また、能や浄瑠璃などの脚本でも活用され、序は導入部、破は展開部、急は結末部となります。
三段階で構成されているという意味では「三幕構成」と似ていますが、あくまでも雅楽や能、浄瑠璃などで使われているものなので、必ずしもシナリオに活用できるとは限りません。ただし、芸術の基本として押さえておくといいでしょう。
・起承転結
「起承転結」とは、漢詩の構成法の一つです。たとえば絶句では、第一句から順に「起」で説き起こし、「承」で承けて展開し、「転」で変化を起こし、「結」で全体を締めくくります。4つの段階があるため「四部構成」と似ています。
起承転結は作文などでも広く意識されている構成ですが、元はあくまでも漢詩の構成法です。そのため、必ずしもシナリオのストーリーに当てはまるとは限らず、あらかじめ用途の違いを認識しておくことが求められます。
まとめ
ストーリー構成の王道として、以下を紹介いたしました。
・三幕構成(序破急):シド・フィールド(『素晴らしい映画を書く』)
・四部構成:ラリー:ブルックス(『工学的ストーリー創作入門』)
・十個の要素:K.M.ワイランド(『ストラクチャーから書く小説再入門』)
・二十二個の要素:ジョン・トゥルービー(『ストーリーの解剖学』)※番外編
・序破急
・起承転結
これらはいずれも、ストーリー構成の基本です。ぜひ、自分が好きな作品を元に、それぞれの構成で分解してみると、創作の参考になるかと思います。
ただ、いずれのストーリー構成においても、大きな枠組みはそれほど変わりません。その点、ストーリーの軸を押さえつつ、創作に役立ててみてください。