単なる感想や気づき、経験、あるいは日記のようなものを書く場合ならともかく。エビデンスに基づいたまともな文章を書こうとするのなら、「読む」ことが重要なのは当然である。文章に正当性を加える“根拠”や“背景知識”を得る必要があるためだ。
しかし一方で、どうすれば“読み”の技術を向上させることができのだろうか、ということについては、あまり語られていないように思う。読みのスキルそのものが低いと、“読み”から得られるもの(情報や知見など)が限定されてしまうのにも関わらず、だ。
そこで、読みのスキルを高めるために、あるいは、より良く読むために、「書く」ことの是非について考えてみたい。
書くことによってもたらされる5つのこと
主に、文章を書くことによってもたらされる効果・恩恵は、次の5つに集約される。ひとつずつ見ていこう。
1.インプットの過不足を確認できる
あらかじめ書くことが決まっていないのならともかく、書くべきこと(テーマ、主題)が決まっているのにも関わらず文章が書けないとしたら、それは明らかに、インプットが不足している証拠だ。いま一度、書籍や雑誌、論文、Webなどをチェックし直そう。
このように、いざ文章を書いてみることによって、インプットの過不足を確認できる。むしろ、実際に書いてみなければ、自分がどれだけインプットしているのかがわからないのだ。とくに、読むこと・聞くことばかりに注力している方には、この気付きが欠かせない。
2.インプットの質を確認できる
また、書くことによって、インプットの“質”を確認することも可能だ。インプットは量も大事だが、それと同様に質についても留意する必要がある。なぜなら、インプットの質が低いままだと、アウトプットの質も高まらないためだ。
「どうも自分が書いている文章は稚拙に見える」。そのように思う方がいたら、インプットの質を変えてみてほしい。Web記事ではなくビジネス書、ビジネス書ではなく専門書、専門書ではなく原著論文など、より確実なエビデンスが得られる文章にふれてみよう。
3.系統立てて物事を考える力が身につく
わかりやすい文章というのは、総じて論理的な構成に基づいて書かれている。そのような文章から「論理的な文章とはなにか」を学ぶことができる。裏を返せば、自分の文章がどうもわかりにくいと感じる場合、構成を工夫する必要があるということだ。
構成は、「一文の組み立て」「パラグラフの組み立て」そして「文章全体の組み立て」をそれぞれ意識する必要がある。実際に文章を書いてみることによって、自らに欠けている論理性がどの部分に起因するのか、見えてくるはずだ。
4.論理的・批判的な思考が身につく
文章を書き慣れてくるとわかるが、大量の文章を書いていると、自分なりのスタンスが身につくだろう。そのスタンスこそ、論理的思考や批判的思考の入り口となる。なぜなら人間は、よりラクをしたいと考える存在だからだ。
よりラクに文章を書きたいと考えれば考えるほど、思考は論理的になる。論理的な文章とはつまり、伝えるための最小限の文章であり、無駄のない文章だからだ。そして、そのような文章を書くためには、自らの文章を批判的に考えざるを得ないのである。
5.アイデアが生まれる
文章を書くことによって、思考を見える化することも可能だ。いわゆる「フリーライティング」や「ノンストップライティング」などはまさに、時間を決めてとにかく書いてみることによって、“創作”と“修正”を分離しつつ、思考を見える化できる手法である。
また、「マインドマップ」を使えばアイデアを創出することも可能だ。マインドマップで書かれるものは単語ベースが基本だが、ここに短い文章を書くことで、アイデアを得ながら文章全体の構成に関するヒントを得ることもできるだろう。
「読むこと」と「書くこと」のバランスを整えよう
読むことが好きな人は多いだろう。しかし、そのために書くことがおろそかになってしまうと、“読み”そのもののレベルも高まっていかない。「読むこと」と「書くこと」は表裏一体であると認識し、それぞれのレベルを高めていってほしい。
誰にも見られないのであれば、書くことは何でもいい。何でもいいとは文字通り、「思いついたことを適当に書き連ねる」ということだ。もしその文章を誰かに見せたいのなら、きちんと構成を組み直し、手直しすればいいだけだ。
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