座右の書『貞観政要』 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」
「東洋の帝王学」として名高い、中国古典の『貞観政要』。とくに政治家や経営者など、リーダー層に就かれている方、あるいはこれから就く方であれば、いちどは手に取ったことがあるのではないでしょうか。
そんな『貞観政要』を、ていねいにわかりやすく解説してくれているのが本書、『座右の書『貞観政要』 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」』です。著者は経営者のなかでもとくに有名な読書家であるライフネット生命の出口治明氏。
これまで、「『貞観政要』はむずかしいから……」と敬遠されていた方も、あらためて本書で学んでみてはいかがでしょうか。こちらの記事では、筆者がとくに感銘を受けた項目をピックアップしてご紹介します。
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座右の書『貞観政要』 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」
以下、本書のなかから特筆すべき事項を、厳選しておおくりします。
「三鏡(胴の鏡、歴史の鏡、人の鏡)」
リーダーは3つの鏡を持たなければいけない
3つの鏡とはつまり、「自分の顔」「歴史」「人の意見」のことです。リーダーは、これらの要素をもとに、自分の事業や仕事内容、周辺環境について考えなければなりません。
たしかに、ひとつの指標に偏っていては、的確なマネジメントができません。自分、他人、歴史という3要素から、バランスよくものごとを判断することで、意思決定の質が高まります。
リーダーと器
組織はリーダーの器以上のことは何一つできない。
組織はリーダーの器にかかっている。しかも、その器は簡単に大きくすることはできない。ではどうすればいいのでしょうか。出口さんは「捨てること」を勧めています。
器を大きくすることができないのであれば、中身を捨てればいい。そうすれば、新しい価値観や部下の直言、考え方を吸収することができる。つまらない自尊心や羞恥心など、捨ててしまえばいいのです。
リーダーは「話を聞く相手」を選んではいけない
リーダーは、情実や好き嫌いで話を聞く相手を選んではいけません。
人間だれしも、自分にとって都合のいい話や、ウマの合う相手の話を聞いてしまうものです。しかし、リーダーたるもの、相手を選ばずに人の話に耳を傾けなければなりません。
なぜなら、幅広い立場からの意見を聞き、受け入れ、最適な意思決定を行うのがリーダーの仕事だからです。そうすることで、物事をより立体的にとらえられるようになります。
清濁併せ呑む
“清潔すぎる人”は他人を息苦しくする
リーダーは、人格者として優れているべきです。しかし、すべての人間には良い面もあれば悪い面もあります。つまり二面性があるのです。そのことを忘れてはいけません。
つねに厳格であろうとすれば、周囲の人は息苦しくなってしまいます。そして、自分自身も縛ってしまう。理想論におちいり、真実から目をそらしてはいけないのです。
この点、イタリアの政治思想家であるマキャヴェリは、『君主論』で次のように述べています。少し長いですが引用します。ぜひ、比較してみてください。
君主(指導者)たらんとする者は、種々の良き性質をすべてもち合わせる必要はない。しかし、もち合わせていると、人々に思わせることは必要である。
いや、はっきり言うと、実際にもち合わせていては有害なので、もち合わせていると思わせるほうが有益なのである。
思いやりに満ちており、信義を重んじ、人間性にあふれ、公明正大で信心も厚いと、思わせることのほうが重要なのだ。
それでいて、もしこのような徳を捨て去らねばならないような場合には、まったく反対のこともできるような能力をそなえていなければならない。
創業も守成も、どちらも難しい
ベンチャー企業を創業するには、「天の時、地の利、人の和」が必要です。
創業時には、タイミング、得意分野、支援者が必要になります。ただ、無事に創業できたとしても、組織を継続的に成長させることはなかなかできません。
組織が大きくなる過程では、仕組みづくり、ルールの設定、合理的なマネジメントが必要です。つまり、創業も守成も難しいのが事業における前提なのです。
まとめ
この他にも本書には、リーダーが理解しておくべきさまざまなポイントが掲載されています。本書で概要を学びつつ、ぜひ、『貞観政要』にも挑戦してみてはいかがでしょうか。
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もくじ
序章 「世界最高のリーダー論」はどうして生まれたか
――ものごとの「背景」を押さえる
第1章 リーダーは「器」を大きくしようとせずに、中身を捨てなさい
――「権限の感覚」と「秩序の感覚」
第2章 「部下の小言を聞き続ける」という能力
――「諫言」の重要性を知る
第3章 「いい決断」ができる人は、頭の中に「時間軸」がある
――「謙虚に思考」し、「正しく行動」する
第4章 「思いつきの指示」は部下に必ず見抜かれる
――「信」と「誠」がある人が人を動かす
第5章 伝家の宝刀は「抜かない」ほうが怖い
――「チームの仕事」の重要なルール
第6章 有終の美は「自分」にかかっている
――ビジネスを「継続」していくために
著者
出口 治明
1948年、三重県生まれ。ライフネット生命保険株式会社代表取締役会長。京都大学法学部を卒業後、72年、日本生命保険相互会社入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当。生命保険協会の初代財務企画専門委員会委員長として金融制度改革・保険業法の改正に従事。ロンドン現地法人社長、国際業務部長等を経て同社を退職。その後、東京大学総長室アドバイザー、早稲田大学大学院講師等を務める。2006年ネットライフ企画株式会社設立、代表取締役社長に就任。08年にライフネット生命を開業、12年東証マザーズ上場。13年より現職。