個々人が発揮する仕事のパフォーマンスを測る指標に「生産性」があります。生産性とは、その人やその企業がどのくらいの生産力があるのかを示す指標のことで、通常は生産要素を投入することによって得られる産出物の割合を示します。
たとえば業務についてであれば、その仕事に投入した時間や労力、それらを加味した「労働力」に対し、どのような成果物が得られたのかを計測することによって、生産性が求められます。とくにその場合の生産性を「労働生産性」と言います。
このようにして、投入したもの(インプット)に対する産出物(アウトプット)を検討するのが生産性の考え方ですが、中でも個人の場合、いかに生産性を高められるかはその人の能力や資質、働き方、さらにはモチベーションなどさまざまな点が関連しています。
では、どのようにして生産性を高めていけばいいのでしょうか。要点は幅広い分野にわたるのですが、とくに本稿では、「休息」について取り上げてみたいと思います。つまり、休むことによって生産性が高まるのではないか、ということについてです。
■休息と活動のあいだ
投入した労働力に対する産出量が生産性を左右するのであれば、本来は、できるだけ休息をとらずに仕事をし続けるのがいいと思う方もいるかもしれません。たしかに、仕事に取り組む時間という観点からは、そのような発想が正しいです。
ただ、私たちは機械ではありません。やるべき仕事とエネルギー源があればいつまでも成果をあげられるわけではなく、メンタル(モチベーションや外発的・内発的動機など)にも左右されるため、単純に、従事する時間だけを考慮するわけにはいかないのです。
加えて、「体力」という外的な要因に関しても、休息が重要であるとわかります。私たちの身体は、「食事をする」「睡眠をとる」ということに加えて、「休息をとる」ことによってエネルギーを養っています。そのため、休息がエネルギーを生む要素でもあるのです。
事実、休むことなく仕事をしたときよりも、定期的に休みをしながら仕事をしたときのほうが、高いパフォーマンスを得られるケースが多いです。肉体労働はもちろんのこと、知能労働に関しても、休息による体力や集中力の回復が成果を高めるためです。
たしかに、休まなくても一定のパフォーマンスをあげられるのであれば、休まないにこしたことはないでしょう。しかし人間は、私たちが考えるほど高い集中力を維持できるわけではなく、体力もまた年齢とともに衰えてしまいます。
その結果、体力も集中力も減退した状態でダラダラと仕事を続け、生産性が下がってしまうのは当然ではないでしょうか。つまり、適度に適切に休憩をはさみながら、高いパフォーマンスを維持していくことが、人間の生産性を高めるのです。
■最適な休息の時間とタイミングとは
そこで問題になるのが、「どのタイミングで、どのくらい休息をとればいいのか」ということでしょう。結論から言うと、休息の最適なタイミングや時間は、個々人によって異なります。なぜなら、もともとの体力や精神力に差があるためです。
そのため、重要なのは、自分なりにベストな休息時間とタイミングを見極めることです。当たり前のように思われるかもしれませんが、この探求を疎かにしている結果、パフォーマンスを上げられていない人も少なくありません。
巷には休息の方法論も溢れていますが、その多くは、特定の人にのみあてはまる一つの事例に過ぎません。やはり、自分の身体と心に向かい、どのタイミングで休息をとるのがベストなのかを探求しない限り、生産性を向上させることはできないでしょう。
難しく考える必要はありません。仕事の時間と休息の時間を計測し、いろいろな時間に変えてみて、生産物の量を比較してみればいいのです。一日、一週間、一ヶ月というように、期間を設けて計測していくと、徐々に自分に合ったやり方が見えてきます。
たとえば私の場合、執筆時間と休息時間およびタイミングをふまえて、書いた分量を比較しています。そうすることによって、どのタイミングでどのくらいの休息をとるのがベストなのかが、現状としてわかるようになりました。
ひとつの指標として、「ポモドーロ・テクニック」では、25分の作業と5分の休憩を1ポモドーロとし、それを4回くり返してから30分の休憩をとることを推奨しています。実際にやってみるとわかりますが、25分というのは思いのほか、長く感じられるものです。
そのように「25分と5分」という作業ペースをひとつの目安として、「30分と7分」「60分と15分」など、仕事内容や働き方、あるいはそれぞれの体力や集中力に応じて調整してみると、現段階における自分のベストが分かるかと思います。
■ときには強制的に休息をとることも大事
仕事の時間だけでなく、休息の時間をあらかじめ決めておく習慣は、休息を「強制的に」とることにつながります。とくに、働きすぎてしまう人ほど、このように強制的な休息をとる(とってしまう)仕組みが大切です。
つい休まずに仕事をしてしまう人は、そうすることが最も成果をあげられると考えているかもしれませんが、果たして本当にそうなのでしょうか。気力・体力・精神力が他人よりも強い人ならともかく、そうでないのなら、一度、計測してみたほうがよさそうです。
実際に、仕事時間と休息時間、生産量をきちんと計測してみると、案外、適度な休息をとったほうが高い集中力を発揮でき、結果的に、成果物も多くなるということがあるはずです。そのような事実は、休息の大切さを教えてくれます。
長時間、休むことなく働くことを美徳と思っている方もいるかもしれませんが、そのことが生産量を下げる要因になっているとしたら本末転倒です。むしろ、強制的に自分を休ませること、それも仕事のうちだと考えなおすべきでしょう。
いずれにしても、長時間働くのをよしとしてきた文化は、きちんとしたエビデンスを反映していない、単なる根性論です。気合いや根性に頼るのではなく、よりよい成果をあげるためにも、休息に目を向けるようにしましょう。
■「個人」として生産性を上げていくために
給与体系のひとつに「時給」の概念があります。この時給、時間によって報酬が支払われるというわかりやすい指標なのですが、一方で、「時間が経てばお金がもらえる」という間違ったイメージを植え付けるものにもなってしまいます。
時給があらかじめ決まっている仕事は、「その時間をいかに楽に過ごすか」という発想につながりやすく、場合によっては「逃げの仕事観」を養うことになりかねません。そうではなく、「時間の中でどれだけのパフォーマンスを発揮できるか」が正しい発想です。
そのためには、給料だけに目を向けるのではなく、自分が携わっている仕事がどんな価値を提供し、その業務に従事することで自分がどれほど成長できるのかを考えることが大切です。同じ時間の中でも、やりがいや成長性は異なるためです。
時間は有限であるからこそ、有効活用しなければなりません。生産性をあげるだけではなく、自らの可能性を広げ、より活躍できるようになるために。自分に合った適切な休息の習慣を身につけ、それを日々の活動に組み込みましょう。
疲れがたまっている人は、その時点ですでに、休息をうまくとれていない可能性があります。必ずしもまとまった休息をとれなくても、スキマ時間を活かし、身体や心を休む工夫をしてみましょう。短い時間で休息・回復できるようになれば便利です。
同時に、休息の方法について模索してみるといいでしょう。たとえば、椅子に座ったまま休んだり、立ったままリラックスしたりなど、休息の方法はさまざまです。10分だけでも横になると、昼寝の効果が得られることもあります。ぜひ、探求してみましょう。
■まとめ
・生産性をあげるために休息が必要
・休息は自分に合ったペースでとるのが大事
・ときには強制的に休息をとること
・休息は時間の有効活用につながる
どのくらいの時間やタイミングが休息としてベストなのか、計測・記録しながら模索してみましょう。