今回の「ミスターX取材企画」は、「LGBT(性的マイノリティ)の現状・施策」を調査。LGBTビジネスの潜在的な市場を掘り起こすヒントを探ります。
はたして、ミスターXのLGBTへの理解度は深まったでしょうか。
(取材担当のミスターXは男女混合の取材チームです。編集・山中)
ほぼ満員! 港区のLGBTに関する取り組みがハンパない
会場はみなとパーク芝浦。都営地下鉄三田駅から5分程歩いた場所にある。港区が運営する施設で、非常に立派な設備。受付を済ませホール会場に入ると、200人近く座れる座席は、ほぼ満員状態。
司会のあいさつと同時進行で、手話の通訳もあるなど、今回のセミナー講演に対する、港区のクオリティの高さに驚く。講演中の録画・録音はNG。傍聴者は、企業関係者、個人と半々くらいだろうか。
カミングアウトすることができなかった青春時代
講師については以下のとおり。
『特定非営利活動法人虹色ダイバーシティ 代表 村木 真紀さん』
1974年茨城県生まれ。京都大学卒業。日系大手製造業、外資系コンサルティング会社等を経て現職。
LGBT当事者としての実感とコンサルタントとしての経験を活かして、LGBTと職場に関する調査、講演活動を行っている。大手企業、行政等で講演実績多数。関西学院大学非常勤講師、大阪市人権施策推進審議会委員。第46回社会保険労務士試験合格。2015年「Googleインパクトチャレンジ賞」受賞。アメリカ国務省のIVLPに選出され、5都市を訪問。
村木さんは、思春期の頃から、好きになる人の対象が女性だった「レズビアン」。 ご両親には、ずっと本当の気持ちをカミングアウトできず、 非常に悩み苦しかったそうだ。
20人に1人の「LGBT」えるじーびーてぃー…?
まず、基本中の基本から。
- L…Lesbian レズビアン(女性が女性を好きになる)
- G…Gay ゲイ(男性が男性を好きになる)
- B…Bisexual バイセクシャル(性別はかかわらない)
- T…Transgender トランスジェンダー(性同一性障害で医療(精神科など)必要)
これらは「性的マイノリティ」といって、好きになる相手の性別が「異性」でない場合や、身体の性別と自認する性差が異なる(性自認:SOGI=sexual orientation and gender identity)場合があるとのこと。
例として、タレントの「はるな愛さん」や「マツコデラックスさん」は、 身体は男性だけど、心は女として、自認させたいということだ。
同性を好きな人が、自分の性別を変えたいと思っているものとは限らない。性とは男・女の二つだけでなく、多様なものということ。
日本では、数値的にどのくらいLGBTの方が存在するかというのは、国での統計がこれまでないため、はっきりした数字はない。ただ、民間の調べでは 5~7%(男性4.9%女性7.1% 2013年相模ゴム工業調べ)ほどだそうだ。
ちなみに、異性愛者のことは「ストレート」と表現されている。
今回、この4つの単語を、覚えていってもらいたい、ということで、 村木さんに続き、発生練習をしてみましょうというワークになる。
雰囲気としては、来場者全体とまどいはありつつも、普段口にしない単語をリピート。会場は拍手喝采、盛り上がる。
無知とは恐ろしい。「レズ・バイ」など省略してはNGなんだそうだ。これまでとくに考えず、無意識に使っていた人も多いかもしれない。
生きづらく困難な環境
LGBTの方は、私生活だけでなく、職場・学校などにおいて 下記のような問題が挙げられている。(国際基督教大学ジェンダー研究センターとの共同研究調べ)
・求職時に困難を感じる LGB40% T69%
(事例:エントリーシートに男女の書き分けを書く項目で、“男”として書きたいということで、子宮を摘出手術し、就職活動をする女性)
・うつ LGB25% T35%
(事例:本当の自分をさらけだせない、カミングアウトできないことでうつを発症)
・差別的言動がある
・解雇、昇進差別、いじめ、からかい
・排泄障害 T27%
(事例:トイレが本当に苦痛で、できるだけ職場で水分をとらないようにしたり、トイレを我慢するため、膀胱炎を発症してしまう)
・低所得~年収200万円未満 当事者34%
特に、LGBTの若者においては、親にも友達にも相談できず孤立しており、メンタルヘルスの悪化が引き金で、自死を選ぶことが後を絶たないそうだ。
LGBT特有の課題として、 同性パートナーの法的保障がないことがあげられる。
結婚できず、なんの保障も受けられない。
(相続、税制、社会保障、住宅、福利厚生、在留資格、手術への同意、面会、看護)
日本の法律は厳しく、性別変更も容易でないというのが現実。
戸籍の性別変更は、20歳以上、未婚、未成年の子がいない、生殖器がない、あるいはその機能を欠く、性器の見た目が望む性別に近くなくてはできないそうだ。
パートナーに財産を残してあげたいために、養子縁組で戸籍に入っても、 それは夫、妻としてではなく、パートナーの死後、親族から非難を受け、遺産放棄したという事例も数多くあるそうだ。
また、一般的な社会問題の隠れた背景に
- メディアや周囲の差別的言動
- 不法解雇、就職活動の壁
- 貧困ハイリスク層
- HIV/AIDS
- 薬物依存、アルコール依存
- DV
- うつ、自死
- 引きこもり、中退
- 地域のつながりの希薄化
などの諸問題についての課題は非常い多い。
同性愛の歴史
18世紀…犯罪(ソドミー法があった時代は、罪として投獄されていた)
19世紀…病気(同性愛は精神疾患として、電気ショック療法がされていた)
20世紀…変態(独→ナチスが同性愛者を強制収容所で虐殺、英→公立学校の講師になれない)
21世紀…人権(2011年 国連人権理事会でLGBTの権利に関する決議(日本も賛成)
現代でも扱いは、国によっても差がある。 中東では死刑。 ヨーロッパ、アメリカ、カナダ、南米、ニュージーランドでは同性愛者婚が認められている。
現代では、差別禁止法が次々と成立し、差別こそが違法という流れになってきている。 問題なのは、この歴史を学校で学ぶ機会がないことだ。 そのため、社会教育として取り組む必要があるのだ。
求められる企業の取り組み
LGBTに対する企業対策は、海外のほうが一足速い。
日本よりも差別禁止の理解がより進んでる。米英では、LGBTに関する企業の取り組みを採点して発表する団体も多い。
子供がなく、収入所得が高い同性愛者カップルに向けた企業の打ち出しは非常に熱い。LGBTに理解があるという企業認定マークを前面に出し、LGBT層の消費につなげようというのだ。
一例として、酒メーカー、レジャー、保険会社、スープで有名なキャンベル、アパレルではGAPなど。日本では、レクサスや、ソニー、トヨタ、日産、任天堂などが有名だ。
この動きは企業だけでなく、行政にも支援が広がりつつある。
・淀川区、那覇市はLGBT支援宣言
・奈良市はIGLTA(国際ゲイ&レズビアン旅行業協会)加盟を表明
・文京区、多摩市は、男女共同参画の条例に盛り込む
・渋谷区は、法律的には影響はないが、同性パートナーシップ証明 事業者に「配慮」を義務付け、違反があった場合は指導、助言、勧告→事業者名の公表
・世田谷区は、同性パートナーシップ宣誓書
など、日本も先進国に追いつくべく 職員向け研修や、電話相談窓口など全国に広がりを見せているそうだ。
理想のカミングアウト対応事例
なんと、その事例を対話形式で、村木さんと職員の人が実演をしてくれた。
①子供からLGBTをカミングアウトされたケース
頭ごなしに否定せず、だれにもいえなくてつらかったことをわかってあげる。
一緒に、どうやってこれから人生を選択し、歩んでいくか、学んでいく、教えてほしい。という姿勢でいることで、子供は心を閉ざすことなく、親に正直に話せたこと、味方になってもらえるという安心感を抱くことができる。
②職場の同僚からカミングアウトされたケース
LGBTの人は、日ごろ神経質なくらい職場の人、環境を観察している。
「あなたなら理解してもらえるかもしれない」という気持ちで打ち明けられたとき、驚くかもしれないが、
「自分だけに話してくれてありがとう。このことは誰にも話さないから安心して。なにか困ったことがあったなら話してほしい」
と、落ち着いて受け入れてあげることで、より信頼感が増し、仕事がやりやすい環境を築くことができる。
③新人歓迎会で新入社員が、社員が多数いる前で、差別的発言があったときの上司としてのケース
緊張している新入社員が、周囲を笑わせようと、
「実は最近、男から告られ、キモかったんすよーあははは」
というウケ狙いの発言に対し、
「それは差別発言だそ。わが社はLGBTに理解があるし、君を面接した専務はバイセクシャルの方だが?」 と毅然と注意する。
ここで会場は大爆笑。
(そもそも、新入社員も決して悪気があって話題をふったつもりではく、無知ゆえ引き起こしてしまったこと。しかし、その場にLGBTの人がいれば、心を傷つけていることは間違いない)
それは差別なんだとうことを毅然として教えることが大事だということだ。
企業としてできること、それは
- 支援体制をととのえる (会社全体で、LGBT研修を受け、理解を深める)
- 差別禁止規定への盛り込み、経営層のLGBT支援、福利厚生の見直し
- 商品やサービスの見直し
- 従業員の意識調査
- 啓発キャンペーン
- 当事者団体への支援
アライALLYとしての姿勢
これは、LGBTに理解と支援がありますよという意思表示。
アライとしての活動は、一部の当事者のためだけでなく、自分を含む職場環境や地域をもっとよくするためにある。
・周囲に当事者がいることを「いつも」意識する
例:彼、彼女でなく、「恋人、パートナー」など、性別にかかわらず使える言葉を使ってみる
・差別的な言動を見かけたらツッコミを入れる
例:「そんなんアカンで」「不適切ですよ」
・アライであることを積極的に表明する
例:虹色のステッカーを貼ってみる
・情報収集を欠かさない
例:虹色ダイバーシティーのフェイスブックをチェックする
・当事者と一緒に学ぶ
例:LGBTイベントに参加する
・自分の中の思い込みをチェックする
例:「常識」「普通」という言葉を疑ってみる
セミナーに参加してみて
非情に勉強になった。
調査員は、以前、別の仕事でLGBTの方と話をさせていただく機会があった。しかし、他の同席していた経営者(全員男50代)たちから、性的なからかいを浴びせられ、その場で毅然と言ってあげられなかったことが、今でも悔やまれてならない。
ご本人は苦笑いしてておられたが、傷つかれていただろう。そう思うと、当時の無知だった自分が非常に情けない。
「ALLY」を明示し、イベントにも積極的に参加しようと思った、学びも多く、心に残る充実したセミナーだった。 帰り道、ビル群の中にひっそりある神社で無病息災を祈って三田を後にする。
※講師村木さん共著の本、『職場のLGBT読本』 はLGBT初心者にオススメ。
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講師印象…★★★★★
セミナー内容…★★★★★
行ってみてよかった度…★★★★★