世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」 (光文社新書)
数値データや論理性が重視されるビジネスの現場において、今、エリート層を中心に注目を集めているのが「アート」です。本書ではそれを「美意識」と表現しています。
では、なぜビジネスや経営でアートがに注目が集まっているのでしょうか。その答えは、変化する現代社会と、予測できない未来にありました。
この複雑で不安定な世界で
これまでのような「分析」「論理」「理性」に軸足をおいた経営、いわば「サイエンス重視の意思決定」では、今日のように複雑で不安定な世界においてビジネスの舵取りをすることはできない
これが、いわゆるエリート層を中心にアートに注目が集まっている理由です。さらに本書では、そう言える理由を次の三点としています。
1.論理的・理性的な情報処理のスキルの限界が露呈しつつある
2.世界中の市場が「自己実現的消費」へと向かいつつある
3.システムの変化にルールの制定が追いつかない状況が発生している
それぞれの詳しい内容は本書を読んでいただきたいのですが、端的に言えば、「進化に対応できない者はやがて衰退する」ということに尽きるかと思います。
ロジカル・シンキングは万能ではない
そもそも、万能な発想法や考え方などありません。たとえロジカルに考えたとしても、状況によって正しい場合も間違っている場合もあるはずです。
とくに経営やビジネスのシーンでは、「これ」という正解がありません。状況に応じて、正解になったり不正解になったりするのが健全な社会というわけです。
さらに、ロジカル・シンキングを身につけている人が増えてしまった以上、そこから差別化するには新しいスキルが必要となる。そのためのアート(美意識)ということでもあります。
効率性のみ追求した者の末路
本書ではライブドアとDeNAの事例が取り上げられていますが、これらの企業は過去、不祥事によって世間を騒がせました。その背景にある共通点は、“倫理性の欠如”です。
たしかに、企業としての存在価値を高めるために、効率性を追求するのは経営者としてとうぜんのことです。ただ、効率性のみ追求すればどうなるかは、歴史が証明しています。
短期的な急成長を追い求めたくなる気持ちをよそに、倫理観を醸成する。そのために文化的素養(教養)が必要となります。しかしどうやら、日本式の教育では身につけにくいようです。
美意識を鍛えるべし。ただし簡単ではないが
そこで日本人も、文化的素養という名の「美意識」を身につけよう、というのが本書のメッセージです。ただし、簡単なことではありません。
絵画をみたり、文学を読んだり、詩歌に親しんだりなど、それなりの意識が必要です。しかも、無理やり文化的素養を身につけようとしても、長続きしそうにありません。
アートとは本来、カラダの内側から欲求がわいてくるもののように思えますが、ビジネスの世界では、そこに目的意識をもち、習慣として取り入れていくしかないのかもしれません。
著者
山口 周
1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て、組織開発・人材育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループに参画。現在、同社のシニア・クライアント・パートナー。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成。岡本一郎名義の著書もある。
目次
忙しい読者のために
本書における「経営の美意識」の適用範囲
第1章 論理的・理性的な情報処理スキルの限界
第2章 巨大な「自己実現欲求の市場」の登場
第3章 システムの変化が早すぎる世界
第4章 脳科学と美意識
第5章 受験エリートと美意響
第6章 美のモノサシ
第7章 どう「美意識」を鍛えるか?