小説家として生きていくための心得『若い小説家に宛てた手紙』マリオ・バルガス=リョサ

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若い小説家に宛てた手紙

若い小説家に宛てた手紙

 ひとはなぜ小説を書くのだろうか?

 残念ながらそこに答えはない。あるのは問いだけだ。そして大切なのは、「やりたいことをやる」ただそれだけだ。だから考えるのをやめて、さっさとペンとり、机に向かった方が良い。

マリオ・バルガス=リョサの著書「若い小説家に宛てた手紙」からわたしが受け取ったメッセージは、かいつまんで言えばそんなところだ。ただ、それだけではあまりに突き放しすぎているかもしれない。

 そこで、小説家を志し、その瞬間から小説家としての第一歩を歩み始めたあなたに「小説家としての心得」を授けようと思う。いつかどこかで、お互いの作品を読みあえる日が来ることを願って。


なぜ書けないのか

一念発起してペンをとり、机に向かったとしても、必ずしも文章が書けるわけではない。どれほど情熱があっても、次から次へとアイデアが浮かんでくる日々を通り過ぎてきたとしても、それは変わらない。

ただ、そこで「書けない答え」を探すのはいかがなものかと思う。良書の読み込みが足りないから?仕事の疲れがたまっているから?昨晩、ぐっすり眠れなかったから?あるいは健康すぎてじっとしていられないから。

たぶん、どれも正解だろう。しかしその反面、明日は書けるかもしれないというのも正解だ。だから気にせずできるかぎり毎日机に向かうのが一番である。マリオ・バルガス=リョサは本書で

月曜日から土曜日のあいだは、朝の八時から午後の二時まで書斎にこもって少なくとも何かを書こうとしています。

と述べている。

ペルー国籍の人間としてはじめてノーベル賞を受賞したリョサですら「書いている」とは断言していない。書こうとすることが大事なのであって、書けない日があっても良いのだ。

小説家としての心得

それでは、小説家として持つべき心得をみていこう。ポイントは次の3つである。

  1. 「書くことそのもの」が喜び 
  2. 「原体験」をもとにして
  3. 思い切って書きはじめる

1.「書くことそのもの」が喜び

冒頭で「ひとはなぜ小説を書くのか」の答えはないと述べた。しかし、小説を書く理由はなくても、「小説家を目指す理由」はあるかもしれない。

それは「経済的に潤うこと」かもしれないし、「名声を得ること」かもしれないし、あるいは「評価されること」かもしれない。あなたの場合はどうだろうか?

もし、そうした願望のために小説家を目指すのなら、あなたはいつか「書くことをやめる」ことになるだろう。なぜなら、それらの願望を叶える道は、他にも数多く用意されているからだ。そして小説家への道はなかでも険しく、苦しく、報われない。

だからこそ小説家は「書くことそのもの」が、何よりの喜びでなければならない。

結果には才能や努力だけでなく「運」や「タイミング」といった不確定要素も必要となってくる。それを求めて書き続けることはあまりにも虚しく、到達するのは至難の業だ。

小説家は書くことそのものによって報われるのだ。

2.「原体験」をもとにして

ひとは体験したこと以上のものは書けない。

だからこそ、書くべき事柄を探す旅は、自分の体験を掘り起こす旅でもある。そして、書くことの“もと”になる体験を「原体験」と呼ぶ。それがあなたという一人の小説家にとっての、「テーマ」であり「主題」であるのだ。

そこに一貫性が無いと、作品の質は大きく低迷することになる。原体験があなた独自の文体を生み、読者はそれを見いだすためにあなたの作品を読むのだ。

小説を書く際には、原体験をつねに意識してほしい。それは、他の誰にも書くことのできない、あなただけの作品を書く道しるべである。

文学において、誠実であるかどうかというのは倫理の問題ではなく、芸術上の問題なのです。

『若い小説家に宛てた手紙』より

3.思い切って書きはじめる

そして最後に。これまで説明したことはすべて忘れて書きはじめよう。

あなたの「書きたい」や「誰かに伝えたい」という情熱以上に、あなたの小説家ライフを支えてくれるものは無い。

ヒトコトまとめ

小説家として生きていくための心得とは

「書くことそのもの」が喜びだと肝に銘じて、「原体験」からフィクションの世界を創りあげるために、思い切って「書きはじめる」こと

お付き合いありがとうございました。多謝。

<目次>

サナダムシの寓話/カトブレパス/説得力/文体/語り手。空間/時間/現実のレヴェル/転移と質的飛躍/入れ子箱(チャイニーズ・ボックス)/隠されたデータ〔ほか〕

<類書>

ベストセラー小説の書き方 (朝日文庫)

小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない

若い小説家に宛てた手紙

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