震災はいつになったら「災後」になるのか?|丸山眞男と考える民主主義

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震災

 民主主義とはいったい何なのか。その問いに対して、一定の指針を与えてくれるのが丸山眞男です。

日本の思想 

 2014年は、丸山眞男の生誕100周年記念の年。そこで今回は、NHKで放送された『戦後史証言~日本人は何をめざしてきたのか~』から、丸山の思想をわかりやすく簡単にご紹介したいと思います。


丸山眞男とは

 1914年(大正3年)に生まれた丸山は、政治学者として、「戦後民主主義」の思想を世の中に広く伝えました。代表的な著書である『日本の思想 (岩波新書)』は“学生必読の書”と呼ばれ、累計100万部以上売れています。

 その他にも、『日本政治思想史研究』『現代政治の思想と行動』など、時代を揺るがす論文を多数発表。まさに戦後を代表する知識人と言えるでしょう。

 ただし、もともとは思想史が専門であってそちらを「本店」、時事論については「夜店」としていたので、民主主義について直接的に書いている本は少ないのが現状です。(だから一般の人にはとっつきにくいのかもしれません)

1.「無責任の体系」からの脱却

日本の軍隊(あるいは当時の国家秩序)は、「抑圧移譲」によって心理的なバランスを取る構造だった。それが、主体的な戦争意識が誰にも存在しない状態、つまり「無責任の体系」を生む。

 抑圧からの解放を願う気持ちがエネルギーに変わる。そうした構造は理解しやすいかと思います。誰しも不自由よりは自由を求めますよね。

とくに日本は、原爆投下による敗戦という最悪の事態を経験しました。それが戦前・戦中の軍国主義、つまりファシズムにあったとすれば、そこから脱却をはかるのは当然でしょう。

 もっとも、そのためには「なぜ戦争を支持してしまった」のかを知らなければなりません。そのひとつの答えが「抑圧移譲」です。つまりは上から下への暴力を伴う命令ですね。

抑圧の移譲が戦争に対する無責任の体系をつくってしまった。だからこそ、今後はその反省を生かし、民主主義に向かおうと丸山は訴えます。

2.「永久革命」としての民主主義

民主主義は「である」ではなく「する」ものだ。完全に実現されることがないために、民主主義自体が永久革命(永久運動)でなければならない。

 ただし、人間は思想だけではなかなか変わらない。さらに過去の失敗や反省を忘れてしまうという悪い習性も持ち合わせている。

だからこそ、どんなに頑張って民主主義を押し進めても、逆戻りしてしまう可能性を拭い去ることはできません。

 ではどうすればいいのか。運動を、革命を継続させるのです。民主主義が永遠に完成することのないものならば、永久に追い求めればいいのです。

「である」という完成されたものではなく、「する」という運動であり続けること。それが丸山にとっての民主主義だったのです。

3.「他者感覚」という永遠の課題

ひとりひとりが発言できることが民主主義の前提である。場合によっては、反対意見を自分の中に内在化させて理解する必要もある。思想はそのようにして発展していく。

 そして、民主主義にとってもう一つ大切な要素があります。それが「他者感覚」です。他者感覚とはつまり、他者の意見を受け入れることですね。

これまですがっていた絶対的な思想(それは「天皇への服従」であったり、「上官の命令」であったりしたでしょうが)には、他者の意見などありません。

もっと言えば、自分の意見すらなかった。だから責任を感じることもないし、思想が発展することもない。それは、民主主義ではないのです。

 永久革命と他者感覚。丸山の思想をなすその両翼は、これからの民主主義を考える上でも重要な指標となることでしょう。

「戦後」はいつからはじまるのか

あらゆる国は民主化の過程にある。

 ところで、「戦後」とはいつからのことを言うのでしょうか。戦争が終わった直後から? それとも十分に復興されてから? 丸山の思想を振り返ってみると、それは「敗戦の構図が明らかになってから」と言えそうです。

 「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ではありませんが、ともすれば、人間は戦争の恐ろしさを忘れてしまいます。安倍政権が行った「集団的自衛権の行使容認」がどこに行き着くのかはわかりませんが、戦禍の匂いがしなくもない。

 だからこそ、なぜ戦争という過ちを犯してしまったのかを知り、永久革命として民主主義を推し進めなければなりません。とくに、戦争を体験していない世代が中心となって

 それは震災に対しても言えることです。復興が遅々として進まない現状を憂うだけでなく、なぜ震災が起きてしまったのかを明らかにし、政府、技術者、そして私たちひとりひとりが胸襟を開いて議論をしなければ、本当の「災後」はやってきません。

 どんなに少数の意見も見捨てない。それが丸山の言う民主主義なのですから。

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