なぜ“書けない人”がいちばん良い文章を書くのか?『書く仕事入門―プロが語る書いて生きるための14のヒント』編集の学校 文章の学校

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書く仕事入門―プロが語る書いて生きるための14のヒント

書く仕事入門―プロが語る書いて生きるための14のヒント

  あなたは「1万時間の法則」をご存知だろうか?

『天才! 成功する人々の法則』の著書であるマルコム・グラッドウェル氏が本書で提唱してい法則だ。ひとことで言えば、「ある特定の分野に習熟したければ、1万時間費やせば良い。そうすれば達人になれる」というものだ。

この法則があらゆる分野に当てはまると言えば少々乱暴だが、なにかを習熟するには「時間」が必要だという側面においては正しい。ローマは一日にしてならず、だ。つまり努力が必要なのである。

問題は、「どうしたら1万時間も努力し続けられるのか」ということだ。


最大の動機は「好き」という気持ち

「好きこそ物の上手なれ」という言葉がある。

この言葉の意味は「好きだから上手になった」あるいは「上手だから好きになった」ではない。「根底に“好き”という気持ちがあるから熱心に試行錯誤をくり返し、ますます上手になれる」という意味だ。周囲の人間からすれば大変な努力家にうつるかもしれないが、本人にとってはなんら苦でない。だから自然と習熟する。

1万時間の努力を重ねるには、この「好き」という気持ちが欠かせない。好きだから寝食を忘れて取り組む。好きだから自然と吸収する。好きだから寝ても覚めても考え続ける。夢中になる。1万時間など「あっという間」だ。

そこでは「効率的な学習」や「勉強術」は必要ない。物事を習熟するために「自ら進んで学ぶ姿勢」よりも大事なものがあるだろうか?優れた勉強法も、優秀な教師も、思いやりのある師匠も、“当事者の気持ち”の前では無力である。むしろ好きという気持ちを芽生えさせるのが優秀な教師の役目だろう。もっと言えば、それができる教師、教科書、師匠こそが優秀なのだ。

活躍するライターに共通するもの

さて「文章家」に置き換えた場合、好きという気持ち以外に“達人になるために必要な要素”はなんであろうか。『書く仕事入門―プロが語る書いて生きるための14のヒント』から抜き出したのが次の3つだ。

1.文章が下手なことを自覚する

「好き」とは「取り組みたい」という気持ちである。

もし誰にも負けないオセロの達人がいたとする。彼は、誰にも負けないどころか、誰とプレイしても数倍の力の差を感じてしまう。それは彼がまさに「神」の領域に到達したプレイヤーだからだ。しかし、こうなるともう「つまらない」。倒すべき相手も、目指すべき境地ももう無い。もしかしたら、彼はオセロをやめてしまうかもしれない。

どれだけ好きなものでも「達観」してしまえばつまらなくなる。誰にも絶対に負けない力量があると勝手に思い込んだ人間は、もう努力しない。やがて好きだったことも忘れてしまうだろう。

驚くべきことに、優れた文章家に共通しているのは彼らがみな「自分は文章が下手だ」と思っていることだ。そんなバカなと思われるかもしれないが、言葉に出さなくてもその「危機感」は随所に表れている。だから努力をやめない。

自らの作品を読み返さない作家が多いのも、そのためかもしれない。「次はもっと良い作品をつくるのだ」。気持ちはすでに次の作品に向かっている。

文章が下手という自覚こそ、継続的な努力への原動力なのだ。

2.書き手×読者×文章リズム=楽しさ

人生は楽しくなければ意味がない。

文章も同じである。楽しくない文章を、だれが限られた時間の中で読もうとするだろうか。ただでさえ、刺激過多な世の中だ。つまらない文章など読んでいる暇はない。

もちろん、笑うことだけが楽しさではない。五感に訴える文章、考えさせられる文章、気持ちをえぐるような文章もまた楽しい文章と言える。人とは違う発想や、斬新なアイデアに対する「へぇ〜」もまた楽しさの一種だろう。

優れた文章家はその楽しさを「自分の軸」と「読者の軸」、そして「文章のリズム」で生み出している。だから発表する作品がどれも刺激的で斬新なのだ。取り上げるネタいかんに関わらず読者の心をつかむことができる。

  作家が生み出す“楽しい”は、「サービス」であり「エンターテイメント」であり「娯楽」であるのだ。

3.誰にも負けない分野をもつ

「誰にも負けない分野をもっていること」はライターの最大の強みである。

それは、他のライターとの差別化にもなるし自信にもつながる。やるべきことが分かっているので、脇目も振らずに深耕できる。どこまでも掘り下げることができる。気がつけばもう追随者はいない。

しかし孤独なランナーではない。

好きを前提にした深耕によって、時代をつくるリーダーになれる。影響力が増せば、あるいは文化をつくれるかもしれない、時代をつくれるかもしれない。それほど可能性のあることだ。まさにライター冥利に尽きるというものである。

文章家に終わりはない。先達から受け継ぎ、未来へとつなぐ言葉を「マスターする」ことなどありえない。だから楽しい。伊藤一刀斎の言葉を借りれば次のような台詞になろう。

「遊びは終わらぬのだ」

ヒトコトまとめ

活躍するライターは

無力さを自覚し、自分にしか書けない文章で、楽しさを生み出している

お付き合いありがとうございました。多謝。

<目次>

三浦しをん・作家
吉田豪・プロインタビュアー・書評家
ゲッツ板谷・ライター
本間美紀・キッチンジャーナリスト
宮澤やすみ・コラムニスト
藤臣柊子・漫画家・エッセイスト
矢部澄翔・書道家
たかのてるこ・旅人OL・エッセイスト
藤田徳人・整形外科医・作家
原納暢子・文化ジャーナリスト・音楽評論家
マドモアゼル・愛・西洋占星術家
加藤圭子・児童文学作家
中沢けい・作家
ハタタケル・癒し人

<著者>

編集の学校 文章の学校

1995年開校の編集者・ライター養成スクール。経験がない方たちに、実績と人脈を提供するカリキュラムで多くの人材を出版業界へ送り出している。監修した書籍に『本を売る現場でなにが起こっているのか!?』『1週間でマスター 小説を書くための基礎メソッド』『ライターになるための練習問題100』など。

<類書>

書く仕事入門―プロが語る書いて生きるための14のヒント

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