仕事の目的のひとつである「賃金(体系)」。この賃金は、社員のモチベーションにどのような影響を与えるのでしょうか。とくに、「新卒一括採用」と「年功序列賃金」の観点から考えてみたいと思います。
ポイントになるのは、経営学(組織論)の「期待理論」および「公平理論」です。
想定する状況
今回の命題において、想定するのは次のような賃金体系です。
まず、新卒社員を一括で採用し、しばらくは賃金に差をつけません。その後、30歳頃から人事評価による賃金差をつけはじめ、それ以降は徐々に賃金格差が拡大するような設定です。
このような体系は、いわゆる大手・中小企業における一般的な賃金体系です。現在はともかくとして、かつては“ロールモデル”とされていたものかと思います。
では、このような賃金体系の会社において、社員のモチベーションはどのように変化するのでしょうか。
30歳までの社員におけるモチベーション(給料差なし)
モチベーションの研究において有名なものに「期待理論」があります。1964年にビクター・H・ブルーム(V.Vroom)が提唱したもので、モチベーションは次の公式で求められます。
努力に対する報酬への期待(主観確率)×報酬に対する価値観(誘意性)
つまり、「努力に対する報酬への期待(人事評価)」が低く(やさしく)、「報酬に対する価値観(誘意性)」が高い者ほど、モチベーションが高くなるということです。
とくに、今回の設定では30歳まで実質的な賃金差がありません。ですので、周囲との比較ではなく、主観的な意見として人事評価(※)を高める努力が容易いと感じているかどうか、と、もらえる報酬そのものに魅力を感じているかどうかがカギとなります。
モチベーションが高くなるタイプ
→①評価されるのは簡単であると感じている
→②報酬そのもが魅力的であると感じている
※人事評価(人事考課)
・成績考課:職務の遂行度・達成度、創造性、指導性
・執務態度考課:規律・協調性、積極性、責任性など
・能力考課:実務知識・専門知識、理解力、計画力、企画力、表現力、渉外力、指導力、管理力など
・業績考課:業務遂行の挑戦度・達成度など
30代以降、賃金差が生じる社員間のモチベーション
次に、30代以降、賃金差が生じはじめた社員における、モチベーションの変化についてみていきましょう。ここで活用するのはアダムス(Adams, J. S.1965)の「公平理論」です。
公平理論によると、社員のモチベーションは次のようになります。
「過少報酬下」:不公平感によるサボタージュ
「過大報酬下」:罪悪感による仕事努力へ
周囲の人間との賃金差が生じるようになると、人の心には不公平感が芽生えます。それは、周囲と比べて賃金が少ない人も、多い人も同じです。
しかし、モチベーションに与える影響は異なります。報酬が少ない人は「こんな報酬でやってられるか」と仕事をサボタージュするようになり、報酬が多い人は「こんなにもらって申し訳ない。より一層、努力しよう」となるのです。
つまり、周囲と比較して報酬が少ない人はモチベーションが低くなり、報酬が多い人はモチベーション高く仕事ができるようになります。
まとめの提言
「新卒一括採用」と「年功序列賃金」は、結果的に、2種類の社員を生んでしまいます。高度経済成長期ならまだしも、現在のように低成長時代においては、望ましい賃金体系とは言えそうにありません。
では、どうすればいいのでしょうか。すでに多くの企業が取り入れているように、「成果報酬の採用」や「給与以外でモチベーションを高める施策の実施」など、会社として工夫し続けるしかないでしょう。
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