良い文章を書くためには「観察力」が欠かせない。
人や物、情景をよく観察できなければ、それらを描写することはできない。イメージできなければ文章におこすことは難しい。イメージから生まれる想像力は、文章に限らず、あらゆる優れた作品を生むのだ。
「よく観察をしてはいる。しかし文章が書けない」そういう人もいるだろう。よろしい。
では、観察力を文章に活かす方法をご紹介しよう。
思い出して書く
ニュースや新聞記事のような「客観的」な文章は、正確な情報量がものを言う。できるかぎりたくさんの正しい情報を入手し、それを取捨選択しながら伝わるように並び替え、文章にしていく。
では、エッセイやコラム、随筆などの「主観的」な文章の場合はどうだろうか。もちろん情報も必要だが、大切なのは「思い出す」ことだ。つまり記憶の掘り起こしである。
同じ体験をしても、記憶の性質はそれぞれ異なる。同じ「野球」を題材にとっても、ピッチャーだった人もいればバッターだった人もいる。監督も観客もいる。もちろんそれぞれ性格や思想、経験も違う。立場が違えば記憶も変わるのだ。そして「物事をどのように観察するか」も。
それが文章に「自分らしさ」を生み、読者を楽しませる。
観察力を文章に活かすために
観察力を文章に活かすためのポイントは以下のとおりだ。
1.「全体」から「部分」、「部分」から「細部」へ
物事を観察する際には「全体」「部分」「細部」を意識する。
全体を俯瞰することで対象の概要を使むことができる。「樹海は富士山をおおうようにして広がっている」
次に、部分へと目を向ければ森の中の木が見えてくる。「樹海を構成しているのはツガやヒノキ、モミ、カエデが多そうだ」
最後に細部にまで目を向ける。これができていないと文章が抽象的になりやすい。「木々だけでなく、地面には苔が絨毯(じゅうたん)のように生えている。鳥たちも多そうだ。昼間でも薄暗いので、夏の森林浴には向いているかもしれない」
2.人・物や情景・時の流れ
観察したものを文章にする際には「人」「物や情景」「時の流れ」を意識する。
文章は一にも二にも“人”である。人があるところに文章が生まれ、人がいるところが文章になる。文章は人に始まり人に終わるのだ。物や情景だけの文章もあるにはあるが、それを見ているのもまた人である。
人は、物や情景に接する。話の流れに関わりのある物や情景を描写することによって、文章に臨場感が生まれる。読者はシーンをイメージしやすくなり、自らの記憶と重ねることで感慨にふける。
さらに時の流れを加えれば、それだけで文章ができあがる。とくに「現在、過去、未来」の順番で書けば、スムーズに頭に入るのでオススメだ。
「真奈美の横顔に夕焼けが映える。5年前、はじめて出会ったのもこの場所だった。私は少し変わっただろうか……。今も愛しているが、明日はどうなるか分からない。娘を渡す気はない」
3.自分との関係性
「自分との関係性」をはっきりさせることも忘れないようにしたい。
社会的なつながりはもちろんのこと、感情の関係性もだ。物事に対して納得しているのか、共感しているのか、あるいは反感や疑問を抱いていたり、単純に驚いている、などである。
書き手と物事の関係性がはっきりすれば、文章にリアリティが生まれる。地に足がついた文章になる。どこを飛んでいるのか分からない文章は、読者を退屈にするだけだ。
関係性とは「態度」という意味にとらえても良い。主観的な文章にはメッセージが必要である。そのメッセージを伝えやすくするのに、明確な態度を表明しておくということだ。そうすると読者もまた、明確な態度がとりやすくなる。
否定も肯定もされない文章に価値はないのだ。
ヒトコトまとめ
観察力を文章に活かすには
「全体・部分・細部」、「人・物や情景・時」、そして自分との関係を意識する、こと。
お付き合いありがとうございました。多謝。
<目次>
第1章 記憶を描写してみよう
第2章 伝わる文章の秘密
第3章 そもそも書く手順とは?
第4章 文章はこう直す
あとがきに代えて <特別編>文章に手を入れる
<著者>
近藤 勝重
毎日新聞専門編集委員。コラムニスト。早稲田大学大学院政治学研究科のジャーナリズムコースに出講、「文章表現」を教えている。毎日新聞では論説委員。『サンデー毎日』編集長、夕刊編集長を歴任。夕刊に連載の「しあわせのトンボ」は大人気コラム。
<類書>