いつものように締切に追われていた私は、迫り来る納期を尻目に、厳しいノルマと戦っていました。別にめずらしいことではありません。いつものことです。
そんなある日。どうにかノルマを終えた私は、何の気なくカフェに行きました。さわやかによく晴れた、日曜日の朝のことでした。
そのときです。私は、これまでに感じたことのない、ある感覚を味わいます。それは控えめに言っても、「多幸感」以外に形容しようのない感覚でした。
いつもより早いノルマ達成
私は、なにが起きたのかわからず、ただ、呆然と中空をながめていました。テーブルの上においたスマートフォンやパソコンには目もくれません。
「この感覚はなんだろう」。
そう思いながらも、フワフワと宙に浮いているような感覚に身を委ねていると、あることに気づいたのです。
「時計の針が10時を回っていない」。
そう、いつもなら、午前中にノルマを達成することはほぼありまぜん。ひどいときになると、夜になっても終わらず、翌日に持ち越してしまうこともあります。
しかしその日は、午前3時頃からはじめて、遅くとも9時には終わっていました。私は自らの内側からたぎる何かを抑えるために、カフェに来ていたようです。
多幸感の正体とは
最初、私は、注文したフレッシュハーブティーがあまりに美味しいので、感動しているのかと思っていました。たしかに、美味しいハーブティでした。
ただその後、同じハーブティを飲みに行っても、あのときのような多幸感を得ることはできませんでした。理由は、他のところにあったのです。
あとになってわかりました。その多幸感の正体は、まぎれもなく、チクセントミハイ氏が提唱する「フロー状態」から得られるものだったのです。
フロー状態の定義は次のとおりです。
目標が明確で、迅速なフィードバックがあり、そしてスキル(技能)とチャレンジ(挑戦)のバランスが取れたぎりぎりのところで活動している時、われわれの意識は変わり始める。そこでは、集中が焦点を結び、散漫さは消滅し、時の経過と自我の感覚を失う。その代わり、われわれは行動をコントロールできているという感覚を得、世界に全面的に一体化していると感じる。われわれは、この体験の特別な状態を「フロー」と呼ぶことにした。
『フロー体験入門―楽しみと創造の心理学』チクセントミハイ
なぜ私はフロー状態に入れたのか?
そのとき、私がフロー状態に入れた理由は明らかです。つまり、
- 明確な目標(1日のノルマ)
- 迅速なフィードバック(自己評価)
- スキルとチャレンジのバランス(執筆力とノルマ)
これらの要素がそろっていたからこそ、フロー状態に入れたのだと思います。事実、たしかに、世界と一体化しているような感覚があったのです。
私はこれを「ライターズ・ハイ」と呼ぶことにしました。そう、マラソンなどの長距離走でランナーが感じる、「ランナーズ・ハイ」のライター版です。
ライターズ・ハイはどこにでもある
ただ、こうした感覚は、ライター以外の職業でも感じることができるものだと思います。それこそ、あらゆる仕事や活動で感じられるのではないでしょうか。
なぜならフロー状態は、特定の条件さえ満たしていれば、いつでも、どこでも、誰でも入ることができるためです。私の場合、たまたま執筆だっただけです。
そして、この感覚を日常的に得られるようになれば、毎日はもっと充実し、幸せな日々となるはずです。肉体的にも、精神的にも。
ぜひあなたも、明確な目標、迅速なフィードバック、スキルとチャレンジのバランスを意識し、自分なりの「◯◯・ハイ」を実現してみてはいかがでしょうか。