最後まで書く!完成させる!小説を書き上げるために必要なこと

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 小説を書いている人、とくにまだ書きはじめて日が浅い人は、内容どうこうより、「ひとつの作品を最後まで書き上げることができない」で悩んでいるのではないでしょうか。事実、ひとつの作品を最後まで書き上げることは、とても大変です。

 よく、映画やドラマなどで、小説家が原稿用紙にむかい、書いてはそれを丸めて投げまた書いては丸めて投げるシーンがありますが、実際に小説を書いてみると、その気持ちがよく分かるという人も多いかと思います。

 とりあえず書き出してみると、書きながら「なんだろうこの駄作は!」「こんな下らないもの書いていられない!」という思いがふくらみ、居ても立っても居られなくなり、最後は丸めて捨ててしまう。現代であれば、選択してデリートする。

 そのような行為をくり返していると、いつまで経っても作品を書き上げることはできません。当然のことながら、作品を書き上げることができなければ、その作品が日の目を見ることはなく、小説家になりたい人は小説家になれません。

 では、どうすれば小説を書き上げることができるのでしょうか。作品がそこに存在している以上、小説を書いている人は必ず、作品を書き上げているはず。その秘訣はどこにあるのか。探っていきましょう。

■初心者ほど小説を書き上げるべき理由

 「いい作品にならないなら、書き上げる必要などないのでは?」。自分が書く小説の質を重視している人は、そのように考えるかもしれません。どうせたいした作品が書けないのなら、書き上げても意味はないと思うのでしょう。

 たしかに、努力に努力を重ね、どうにか書き上げた作品の質が低いと感じるのは悲しいことです。「これまでの苦労はなんだったのだろう……」と、絶望してしまうこともあるでしょう。しかしそれは、小説書きの基本を知らない人が思うこと。

 なぜなら小説というのは、初稿を書き上げるより、書いたものに修正(推敲)を重ねていきながら完成させるものだからです。その点において、とりあえず書き上げることは、あくまでもファーストステップに過ぎません。

 事実、作家の村上春樹さんは、初稿として書き上げた原稿に10回以上も手を入れると述べています。書き上げた直後は頭が興奮しているため、しばらく期間をあけて、あらためて取り出してから何度も何度も加筆修正していきます。

 また、『スクラップ・アンド・ビルド』で芥川賞を受賞した羽田圭介さんも、作家の仕事を「原稿に手を入れることが9割」であると述べています。書き上げることは全体の1割に過ぎず、手を入れるのが作家の仕事であるということです。

 このように、さまざまな小説家の仕事術を見てみると、いかの作品を書き上げることが大切かわかります。そして書き上げる行為というのは、ごく基本的な作業なのであり、本当の勝負はそこからはじまるのです。

 もちろん、初稿の質が高ければ高いほど完成する作品の質も高まるのでしょうが、とくに初心者は、そうした小説を書くステップを体感することのほうが先でしょう。質を考えるのは、実際に書き上げる経験を何度もくり返してからでも遅くはありません。

 とにかく、ひとつの作品を書き上げてみる。そして手を入れる。そのようにして書き上げる経験を積み上げていくことで、作家の仕事というものがわかってくるのです。そのステップは、誰もが避けて通れません。

■書き上げることによって得られるものとは?

 では、ひとつの作品を書き上げることによって、どのようなメリットがあるのでしょうか。最大の利点は、「自信になる」ということでしょう。どんな仕事もそうですが、自分に自信がなければ、優れた成果は生み出せません。自信は仕事の土台です。

 「どうせ自分には書けない」と思ったまま執筆を続けていても、途中でやめてしまうか、嫌になってしまうでしょう。そのまま書き続けていても、自信は向こうからやってくることなく、つらい状態が続いてしまいます。

 他人から評価を受けることも自信につながるのですが、それすらも、作品を書き上げなければ得られません。書いている途中のものを人に見てもらっても、それだけで「小説」という作品としての評価はできず、できても断片的なものにとどまります。

 だからこそ、とりあえず書き上げてみて、「自分はこれだけの文章を書くことができるんだ!」と自信をつけることが大事です。その自信を積み重ねてて、書くことができるとわかれば、そこから質を高める努力に移行すればいいでしょう。

 当然のことながら、文章というのは書けば書くほど上達していきます。作品としての評価は人によって異なるものの、文章としての質やレベルは、これまでに書いてきた量によって比例していきます。書けば書くほどうまくなります。

 そのためにも、ひとつの作品をきちんと書き上げていくこと。書き上げながら、自信を積み上げつつ、文章力を高めていきましょう。量を蓄積することによって、質がついてくるという発想もまた、大切です。

 もちろん、ひとつの作品を書き上げることは、自信がつくこと以外にもメリットがあります。たとえば、作品としての正確な評価が得られたり、自分に足りないスキルが見えてきたりなど、次につながる情報を獲得できます。

 どんな仕事でもそうですが、最初からうまくできる人はいません。より高いレベルを目指すのなら、時間と労力を傾け、努力を続けていくしかないのです。そのためのヒントは、作品を書き上げることによって得られます。

■小説を書き上げるために必要なこと

 では、小説というひとつの作品を書き上げるために、何が必要なのでしょうか。こと「書き上げる」という部分に特化すると、主に、次の3つがポイントになります。

1.全体像をイメージしてから書く
2.だいたいの長さを決めてから書く
3.途中で振り返らずに書き進める

1.全体像をイメージしてから書く

 どのようなシーンからはじめて、誰が出て、何が起こり、最終的にどうなるのかを考えずに書きはじめてしまうと、たいてい失敗します。自分が何を書いているのかがわからなくなり、筆が止まってしまうのです。

 そのような事態を避けるためにも、自分が書く物語の全体像をあらかじめイメージし、最初から最後までの流れをつかんでから、書きはじめるようにしてください。全体像は、頭の中だけでイメージしても、紙に落とし込んでも構いません。

 極端な話、頭の中でイメージした全体像を、箇条書きレベルで紙に落とし込んだものを「初稿」にしてもいいでしょう。その初稿に肉付けして文章に変えていけば、徐々に作品は完成へと近づきます。常識にとらわれず、自分が書き上げられる方法を模索しましょう。

2.だいたいの長さを決めてから書く

 全体像がイメージできれば、だいたいの分量も決まってきます。当然、書き上げる作品のジャンルや長さも決まってくるでしょう。ちなみに、この場合の分量とは原稿用紙の枚数や文字数のことで、長さというのは主に時間軸を表しています。

 また分量については、「何文字」というのでピンとこない場合は、「短編」「中編」「長編」のどれに当てはまるのかを、何となくイメージするだけでも構いません。大切なのは、自分が書いている物語がどのくらいの文章でまとまるのか、です。

 実際に文章を書いていくと、終わりが見えないと思うこともあるでしょう。ただ、終わりが見えないまま書き進めていると、途中で嫌になってしまう可能性があります。それを防ぐためにも、どのくらいの流され終わるのかを意識しておくことは大切です。

 ちなみに、ひとつの目安として、短編の分量は「原稿用紙100枚前後(4万文字)」、中編の長さは「原稿用紙100枚〜300枚前後(4万〜12万文字)」、長編の長さは「原稿用紙300枚以上(12万文字〜)」となります。これらを目安にしましょう。

 その他にも、原稿用紙10枚(4000文字)におさまる「ショートショート」や、さらに短い「掌握小説(1000文字以下)」など、小説の種類はさまざまです。自分が書きたい小説の種類を見極めて、チャレンジしてみるといいでしょう。

3.途中で振り返らずに書き進める

 3つ目のポイントは「振り返らずに書き進める」というものです。実際に小説を書きはじめてみると、途中で書いたものを振り返りたくなるかと思います。そして、これまでに書いた文章を読み直して、絶望的な気分になるのです。

 ただ、書いた文章をその都度見返していると、いつまで経っても先に進めません。もちろん、話の筋を振り返りながら書くことは大事なのですが、とりあえず書き上げるには、どんどん文章を蓄積してしまったほうが得策です。

 そのため、できるだけ文章を見返すことなく、振り返らずに書き進めてみましょう。書いたことが気になるという人は、書いた文章を隠したり見えなくしたりなど、工夫するようにしてください。そのようにして、とにかく書き上げることが大切です。

 さらに、書き上げることに慣れるまでは、誤字脱字や文章の流れ、改行のリズムなど、細かいことを気にする必要はありません。とにかく、イメージした全体像や分量、長さに沿って、粛々と書いていくことが大事です。

 あらかじめ、一日に書く分量を決めておけば、それを守って書き進めることもできます。人によっては、「乗っているときにたくさん書きたい」と思うかもしれませんが、とくに長編は分量が多いため、ペースを守って書くことが大事です。

 たとえば前述の村上春樹さんは、長編小説を書いているとき、何があっても1日あたり原稿用紙10枚(4000文字)を書くそうです。そのようにして、自分なりのペースを守りながら、分量を積み上げていくのです。

 またヘミングウェイは、継続して書いていくために、「次に何を書けばいいのかわかっているところ」でその日の執筆を終えていたそうです。そのように、途中で文章を止めておくことも、続けて書いていくためのポイントとなるでしょう。

■書き上げてから、何度も手を入れてみる

 最初のうちは、ひとつの作品を書き上げることが何よりも大事なのですが、書いたものについては、寝かせたうえで何度も手を入れてみましょう。寝かせる期間は人によってマチマチですが、自分が書いた原稿に対して、冷静になれる期間を設けるようにしてください。

 たとえば、2週間〜1ヶ月という期間をあけて、書き上げたものを見てみると、思ったより良く書けていると感じるのではないでしょうか。じっくり一文ずつ書くのではなく、一気呵成に書いたとしても、それなりに書けることは自信となります。

 たとえ思った以上に悪かったとしても、そこから手を入れていくのが、小説を書くという仕事です。ここから、本番がはじまると思ってください。ただすでに、「書き上げた」という実績はできているので、自信をもちましょう。

 何度も何度も手を入れるには、何度も何度も読み返さなければなりません。読み返すこともまた、小説家の仕事です。何度も取り組むだけの根気がなければ、原稿はより良いものになりません。そのためには忍耐力が不可欠です。

 実は、毎日一定のペースで文章を書き続けることは、この忍耐力を養うことにもつながります。日々、書いているという事実が、自らの忍耐力を強化してくれるのです。そのためにも、作品の執筆は間を置かないようにしてください。

 具体的には、「ひとつの作品を書き上げる」「書き上げた作品は間を置く」「次の作品を書く」「間を置いた作品に手を入れる」という作業を、並行しながら行うのです。そうすることによって、間断なく小説を書いていけることになります。

 つねに小説にふれているという状態は、小説についての理解を含め、また創作者としての経験を積むことにつながります。「書き上げる」「読む」「手を入れる」という一連の動作を、自然にくり返していけるわけです。

 これらの作業を習慣化し、高速で回転させていけば、小説家として必要な土台が自然と養われていきます。それらに加えて、いずれ「取材(文献・場所)」や「インタビュー(人物)」も必要になりますが、そうしたスキルはあとから身につけられます。

 それよりも、「書き上げる」「読む」「手を入れる」という行為をくり返しながら、PDCAサイクルをまわし、経験を通じて小説家としての力量を高めていきましょう。そのためにもまずは、ひとつの作品を書き上げることを目指してください。

■まとめ

・小説は「ひとつの作品を書き上げる」ことがすべて
・書き上げることは作家としての自信になる
・ひとつの作品を書き上げることで多くのメリットが得られる
・書き上げるためのポイントは次の3つ
1.全体像をイメージしてから書く
2.だいたいの長さを決めてから書く
3.途中で振り返らずに書き進める
・「書き上げる」「読む」「手を入れる」のサイクルをくり返そう。

 小説を書くことは、時間も労力もかかる作業です。長丁場であるからこそ、腰を据えてチャレンジしていきましょう。

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