演繹法による論証とは、「一般的に正しいとされていること(前提)」をもとに、「ある事象(観察事項)」をとりあげて、「妥当と思われる結論」を導くものです。
三段論法なども、演繹法の一種とされています。今回、ご紹介する“類推”による論証も、演繹法に似ています。その性質は、2つの事例から類似点を抜き出し、推理するというものです。
まったく異なるもの同士なのに、なぜか類似している点が複数ある。ということは、他の点でも同じ性質をもっているのではないか。そう考えるのが、類推の初期段階となります。
類推による論証とは
類推による論証とは、例証のように複数の事例をとりあげるのではなく、2つの事例から類似点を抜き出すことで、他の点でも共通する部分があるのではないか、と推理する方法です。
類推による論証は、さまざまなシーンで活用されています。たとえば、「肉体と脳はどちらも人間にある器官だ。だから、体を鍛えるように、脳も鍛えなければならない」などです。
ただし、類推による論証は、それだけでは説得力があまりないという点に注意が必要です。上記の例で言えば、肉体と脳は形も大きさも性質も異なります。一概には言えないのです。
類推をさらに発展させる
類推から導き出されるのは、高度な論証というわけではなく、あくまでも共通項の発見です。推理という言葉を使っていることからもわかるとおり、推測の域をでないのが類推です。
しかし、論証において役に立たないかと言えば、そうではありません。類推によって発見したヒントは、研究における「仮説」となり、新しい理論へと発展する可能性があるのです。
とくに、研究が煮詰まってしまうと、何をすればいいのかわからないときがあるものです。そうしたとき、対象物だけでなく、周囲の似たものに目を向けることが、類推なのです。
前提の正しさは必須
例証による論証も、類推による論証でも、前提の正しさを担保しておかなければならない点については同様です。前提が正しいものでなければ、導き出される理論も正しくなりません。
先ほどの例で言うと、肉体と脳は同じ人間の器官ではありますが、その作用はまったく異なります。これが、人間の脳と動物の脳との類推であれば、まだ可能性はあります。
このように、類推による論証を行う場合にも、前提が正しいかどうかを確かめなければなりません。ちょっと考えただけで反論が予想されてしまう場合には、再考するべきでしょう。
まとめ
自然界と人間界、機械と生命、芸術とビジネスなど、異なる分野のものを比較し、類推することによって共通点を導きだすという営みは、あらたな発見を得るために効果的です。
ただし、類推しただけでは、そのまま説得力のある文章にはなりません。双方をさらに比較し、各要素を考慮し、結論が正しいと証明できるだけでの根拠を提示する必要があります。
類推の弱点をしっかりと把握したうえで、他のテクニックを応用しながら活用してみること。とくに、仮説の構築や気づきを得るために、類推を利用するといいのではないでしょうか。