小さなチーム、大きな仕事〔完全版〕: 37シグナルズ成功の法則
常識や社会のルールに従うのは簡単である。
周囲を確認して飛び出さないようにし、誰かが驚いてしまわないように平穏を守り、先達の教えどおりに仕事をこなす。なるべくミスをしない。それを毎日くり返す。「いやはや、今日も良い仕事をした」社内での評価はうなぎのぼりだ。
「さて、そろそろ社会人としての基本もマスターしたし、起業でもしてみるか。なぁに、私にかかれば朝飯前さ。なにせ大手企業のエースとまで呼ばれたのだから。要は会社を大きくすれば良いのだろう?まずはスタートアップからだな」
彼の運命は火を見るより明らかである。いや、「飛んで火に入る夏の虫」か。
大きいことは良いことか?
こと企業において「大きいこと」は良いことだろうか?なんの疑いもなく「イエス」と答えてしまうあなたはきっと、高度成長期を生きてきた人だろう。だが今は21世紀だ。終身雇用が崩壊し、大手企業がウソのようにつぶれる。
それでもまだあなたは「大きいことは良いことだ」と言うだろうか?バブルがはじけてリストラを敢行しなければならなかった大手企業の人事担当者は、当時、候補の社員とその家族のことを思って途方に暮れた。しかし、最終的には無慈悲にも彼らをリストラし、そして最後には自分の首も切った。
彼らは信じていたのだ。「大企業なら大丈夫だろう」と。もう一度聞く。それでもあなたは「大きいことは良いことだ」と言うだろうか?もしあなたが事業を興すとしたら、ただ闇雲に大きい会社へと育てるだろうか。
絶対に会社を潰さないか、あるいはたくさんの社員とその家族を不幸にしてしまう覚悟があるのならそれも良い。いや、不確実性の高いビジネスの世界では「絶対」はありえない。
スタートアップをやめてビジネスをやろう
ビジネスはサークル活動やボランティアとは違う。そこでは「スタートアップだから」などといった甘えは通用しない。生き残るためには愚直にやらなければならないことがある。それは必ずしも「大きい会社」を目指すことではない。
大切なのは以下の3つだ。
1.利益をあげることから目をそらさない
ビジネスは利益をあげなくてはならない。
それも継続的に。社会性のある理念や高い志、あるいは綿密な計画、卓越した戦略など、利益の前ではなんの意味ももたない。利益をあげることができてこそ、それらは生きてくる。
「私たちには理念がある。ビジョンがある。情熱も学もある。だが利益は“まだ”ない」
それはビジネスではない。もしそれをビジネスと呼びたいなら、利益があがっていないことを恥じなければならない。少なくとも、スタートアップという都合の良い呼び名に逃げてはいけない。
「利益をあげることが一番」と言っているのではない。利益をあげることから目をそらしてはいけないと言っているのだ。「アイデアはたくさんある」と言うだけで何も書かない人間を、あなたは小説家と呼ぶだろうか?
2.正直な心で柔軟な対応を
ビジネスは決断の連続である。
その決断を妨げるものは、いかなるものでも取り払うべきだ。身軽でいること、考え方が柔軟であることは、創造性へとつながる。既存のものを売るだけで新たな製品を創り出さない企業は、早晩、淘汰される。
大切なのは「何をやらないか」だ。「何に対してノーと言うか」と言い換えても良い。「何でも屋」が太刀打ちできるほど世の中は甘くない。あなたの企業が発揮できる最大の強みを活かして、そこに全力を尽くすしか生き残る道はない。
ただ、なんでもかんでもノーを言うのは間違っている。それではただ嫌われるだけだ。自分の心に正直になってノーを言うのだ。あなたやあなたの企業が本当に大切だと思うこと。そこから乖離していれば遠慮なくノーを言う。たとえ顧客からの要望だとしても。
「何でも屋にはなれない」。それもまた決断である。
3.普遍的なものを追求する
『小さなチーム、大きな仕事〔完全版〕: 37シグナルズ成功の法則』には「37シグナルズ」が追い求めている「普遍的なもの」が掲載されている。以下のとおりだ。
- 早さ
- シンプルさ
- 使いやすさ
- わかりやすさ
どれも「いつの時代でも変わらずに求められているもの」である。
真新しいモノや革新的なコトを追求するのは悪くない。だが、そこに普遍性があるかどうかはつねにチェックしなければならない。本当に大切なものは、それほど複雑なものではないし、遠くにあるものでもない。
人々が求めてみるものは、「いつでも」「身近に」あるものなのだ。そのことを忘れてはならない。
ヒトコトまとめ
個人や小組織が成功するための秘訣とは
利益から目をそらさず、素直な心で、普遍的なものを追求する、こと。
お付き合いありがとうございました。多謝。
<目次>
はじめに まず最初に 見直す 現実の世界なんて無視しよう 「失敗から学ぶこと」は課題評価されている 計画は予想に過ぎない 会社の規模なんて気にしない 仕事依存症はバカげている 「企業家」はもうたくさん 先に進む 世界にささやかに貢献する あなたに必要なものを作る まずは作り始めよう 「時間が無い」は言い訳にならない 一線を画す ミッション・ステートメント・インポッシブル 外部の資金は最終手段 必要なものは思ったより少ない 新興企業ではなく企業を始めよう 売却するつもりのビジネスは廃却されることになる 身軽でいること 進展 制約を受け入れる 中途半端な一つの製品でなく、よくできた半分の製品 芯から始める 始めのうち詳細は気にしない 決断することで前に進む キュレーターになれ やることを減らす 変わらないものに目を向ける ツールより中身が大事 副産物を売る いま、始める 生産性 書類上の合意は幻想 やめたほうがいいものを考える 邪魔が入る環境では生産性は上がらない 会議は有害 解決策はそこそこのものでかまわない 小さな勝利を手に入れる ヒーローにはなるな 睡眠をとろう あなたの見積もりは最悪だ 長すぎるToDoリストは終わることがない 小さな決断をする 競合相手 商品をありふれたものにしない 真似てはいけない けんかを売る 競合相手以下のことしかしない 競合相手が何をしているのかなんて気にしない 進化 基本的に「ノー」と言おう 顧客を(あなたよりも)成長させよう 熱意を優先順位と混同するな 自宅でも良いもの 顧客の声を書き留めてはいけない プロモーション 無名であることを受け入れる 顧客をつくる 競合相手に「教える」 料理人を見習おう 舞台裏を公開する 造花が好きな人はいない プレスリリースはスパム 「ウォール・ストリート・ジャーナル」は忘れよう ドラッグの売人の方法は正しい マーケティングは部署ではない 「一日にして成功」はない 人を雇う まずは自分自身から 限界で人を雇う 無用な人は雇わない 会社を「知人のいないパーティ」にしない 履歴書はばかばかしい 経験年数は意味がない 学歴は忘れること 全員が働く 「自分マネージャー」を雇う 文章力のある人を雇う 最高の逸材はどこにでも 社員をテストドライブする ダメージ・コントロール 過ちへの対応は自分でひきうける 対応の速度はすべてを変える 誤り方を知る 全員を最前線へ 文句は放っておく 文化 文化はつくるものではない 決定は一時的なもの ロックスターは環境がつくる 従業員はガキではない 五時に帰宅させる 大げさに反応しない あなたらしく話す 四文字言葉 「なるたけ早く」は毒 最後に ひらめきには賞味期限がある
<著者>
ジェイソン・フリード
世界が注目するソフトウェア開発会社「37シグナルズ」の創業者兼CEO。1999年にウェブデザイン会社として始まった同社は、2004年以降、「ベースキャンプ」をはじめとするウェブベースのビジネスソフトの開発・運営で成功。SOHO向けのアプリケーション群は現在数百万の企業で採用されている 。
デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン
デンマーク出身のプログラマーで、37シグナルズの共同経営者。オープンソースのウェブ開発フレームワーク「ルビー・オン・レイルズ」の開発者として知られている。2003年に37シグナルズに参加して以来、同社のソフトウェア開発に技術面で貢献しているほか、いわゆるアジャイル・ソフトウェア開発の推進者として、大企業の開発手法を批判し、それが同社の論調に方向性と勢いを与えている。講演者としても絶大な人気がある。
<類書>