『コンテンツの秘密』から読みとく、コンテンツにおけるたった1つの重要なコト

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コンテンツの秘密―ぼくがジブリで考えたこと (NHK出版新書 458)
川上 量生
NHK出版
売り上げランキング: 1,720

「やっぱりコンテンツが大事だよね」「コンテンツisキングは基本だよ」

たしかに、記事や動画はもちろん、書籍や映画、音楽においてもコンテンツは重要です。ことインターネット上においては、ルールをつくっているGoogleが、コンテンツの質を考慮して検索順位決めていることからも、それは明らかです。

では聞きますが、コンテンツとは何ですか? ぼく自身、恥ずかしながらこの問いに明快なこたえをもっていませんでした。

そこで、話題の書籍『コンテンツの秘密―ぼくがジブリで考えたこと (NHK出版新書 458)』に、「そもそもコンテンツとは何か?」「すぐれたコンテンツとはどのようなものなのか?」への回答を求めてみましょう。川上量生氏なら、きっと明快なこたえを与えてくれるはずです。


コンテンツとは「現実の模倣=遊び」である

人間を含む生物が現実世界の模倣を楽しいと思い、それによって現実世界を学習することで生存を有利にすること。これがコンテンツの起源であるという解釈はかなり正しいのではないかと思います。

とても示唆に富んだことばです。ライオンの子どもは遊びながら“狩り”の基本を学びます。遊びがそのまま“狩りの模倣(学習)”となり、現実世界での生存を有利にしているのです。「生きろ」と願う本能が、子どもたちに遊びを強要します。

ぼくたち人間の場合はどうでしょうか。スポーツを通じて体の動かし方を学び、コミュニケーションをとることで対人能力をみがいている。遊びによって、現実を模倣し、成長しています。そして、その過程で得た学び(遊び)を、コンテンツとして保存し、共有しています。

遊び(学び)の共有によって進む「コンテンツ化」

なぜ積極的に遊び(学び)をするのか。本能が求めているからだと思います。「楽しい」と思うから走り回り、「面白い」と思うからボールを蹴る。「美味しい」と思うから食べる。「気持ちいい」と思うから異性とセックスをする。すべては本能です。

脳が発達した人間は、他の動物とは異なり、遊び(学び)をより効率的に行えるようにしました。それが「コンテンツ化」です。書籍によって知識を得て、音楽によって文化を体験し、写真によって過去を知る。

やがてぼくたちは、技術の発達によって、自らが経験することなく(危険をおかすことなく)、コンテンツを共有できるようになりました。本も、音楽も、写真も、動画も、すべてはメディアに乗せたコンテンツです。

コンテンツの良し悪しを左右する「わかりやすさ」

本能が求めている遊び。その遊びが、より有利に生きるための学びとなる。そして人間の場合には、危険をおかすことなく、より安全に遊び(学び)を体験・共有するためにコンテンツ化を行った。そうした論旨から、「現実の模倣=遊び=コンテンツ」がいえるのでした。

では、すぐれたコンテンツとはどのようなものなのでしょうか? 川上氏は本書で次のように語ります。

人間とは、「分かりやすい」ものが「いい」コンテンツだと思うのではないでしょうか。(中略)なぜ分かりやすいものを「いい」あるいは「美しい」と思うのかというと、複雑なものを簡単な法則に還元できるからではないでしょうか。

まさに、「遊び=学び=コンテンツ」を決定づけることばです。人はシンプルなものを好みます。その理由は、複雑なものは理解するのは大変だから。少しでもラクに理解できるように、単純なものが求められるのです。

ときに複雑なもの(難解な映画、深い味わいetc)が求められるのは、単純なものに飽きてしまったからでしょう。たまにしか映画を見ない人、グルメでない人は、シンプルな映画・食事を好む傾向が強いと思います。

シンプルなコンテンツ=「わかりやすいコンテンツ」。すぐれたコンテンツを決定づけるものは、わかりやすさだったのです。

文章におけるわかりやすさとは何か?

本書でもふれていますが、ジブリ映画のコマでは、意図的に線を増やしたり減らしたりしているそうです。その理由は「情報量を操作する」ため。詳しくは本書を読んでもらいたいのですが、主観的情報量と客観的情報量がわかりやすさを左右する以上、情報量の操作はとても重要なのです。

さて、ぼくは文章の専門家なので、文章におけるわかりやすさについて考えてみます。情報量以外にも着目すると、ポイントは次のとおりです。

・一文が短い
・一文一意
・適切な改行
・こまめな「まとめ」
・ことばの定義がしっかりしている
・ひらがなと漢字のバランスが適切
・専門用語を使わない(解説が付加されている)
・読点が多め
・体言止めでリズムを調整している
・全体像が明らか(リード文、目次、まとめ、見出し)
・論旨が一貫している
・適切な情報量
・イメージを助ける描写(比喩、図説、具体例、数字)

こんなところでしょうか。まだあるかもしれません。これらをまとめると、次の3つに分類できます。

1.見やすさ(視認性)
・一文が短い
・適切な改行
・ひらがなと漢字のバランスが適切
・全体像が明らか(リード文、目次、まとめ、見出し)

2.読みやすさ
・読点が多め
・体言止めでリズムを調整している
・適切な情報量
・論旨が一貫している

3.理解のしやすさ
・一文一意
・こまめな「まとめ」
・ことばの定義がしっかりしている
・専門用語を使わない(解説が付加されている)
・イメージを助ける描写(比喩、図説、具体例、数字)

そしてもうひとつ、欠かせないのが「ストーリー」です。

ストーリーの限界が生んだ多様な“表現方法”

どの作品でも結構です。ジブリシリーズで、いずれかの作品のストーリーを思い出してみてください。できるかぎり詳細に。いかがでしょうか。細部までしっかりと覚えている方は、意外に少ないかと思います。

その理由は、ストーリーではなく、シーンを中心に作品がつくられているから。むしろストーリーは、それぞれのシーンをベースに“後から”つくられているそうです。つまり、ジブリ映画はストーリーを楽しむものではなく、シーンを楽しむものだったのです。

では、わかりやすいストーリーとは何でしょうか。伝わりやすいと言い換えてもいいです。

実は、わかりやすい=伝わりやすい=面白いストーリーというのは、すでに確立されており、新しいものなど存在しないのです。

イケダハヤト氏はブログで次のように語っています。

ぼくが扱うような文章の世界って、結局、「みんな言ってることは同じ」なんですよね。書中では「ストーリーのパターンは限られる」という指摘があるのですが、ブログにおいても、内容は結局かぶるんです。それこそ、お釈迦様からチェ・ゲバラまで、偉人の言葉って「みんな言ってることは同じ」です。

ではブログの本当の魅力はどこにあるかというと、ぼくは「文体」だと思っています。ブログにおける「文体」とは「だ・である調」という議論を超えて、動画や写真をどう使うか、デザインをどうするか、配信頻度をどうするか、誰に語りかけるか、「そんじゃーね!」を使うかどうか…といったマーケティング、アートに関する議論にまで広がります。

『ジブリ作品の魅力はストーリーではない。「千と千尋」とか、確かにストーリーは意味不明:ドワンゴ川上会長の新刊「コンテンツの秘密」が名著すぎる!』

つまり、王道はすでに完成されているのです。ジャンプの人気漫画も、月9で高視聴率をたたきだすドラマも、パターンはすべて同じです。「勇気、友情、大飯食らい」「恋愛、確執、大団円」。ぼくらが楽しいと思うコンテンツに、新しいものなど残されていないのです。少なくとも、ストーリーベースでは

この点について、梅木雄平氏もブログで同様の趣旨の話を述べています。たとえが秀逸です。

よく村上春樹小説を読むと「ピナ・コラーダ」が飲みたくなるとか、「スパゲッティを茹でたくなる」症状を発症される方がいますが、これは村上春樹氏の表現力がずば抜けており、その記述を読むことで読者に明快なイメージが共有されて、時に読者を動かしてしまう(ピナ・コラーダ飲んじゃう)ことがあるのだと思う。

この「ストーリーより表現」が本書で一番僕に刺さった話であり、ある種ストーリーのパターンは数少ないので、いかに表現で勝負するかが大事だということを学びました。

『物語ではなく表現が重要だった。コンテンツの秘密とは』

日本のマンガが世界でも人気ということを考えれば、王道ストーリーは世界共通のものと言えます。ドラマについては、各国で俳優を変えて、似たようなストーリーで展開されている。映画も、音楽も、書籍もそう。新しいストーリーは、世界中のどこにもありません

だからこそ、表現(方法)によって、オリジナリティを発揮するしかないのです。

表現とは、「自分の脳内(ヴィジョン)を他人と共有するための手法」のこと。つまり、「自分にはこう見えているんだけど、君たちもそうじゃない? 同じだったら嬉しいし、異なっていたらそれはそれで興味深いことだよね」ということを、伝えようとする試みです。

この点について、著名な画家たちを例にした、齋藤孝氏の文章をみてみましょう。

「写真のように上手いことよりも、自分にとっての世界の見方を独自なスタイルで表現し、世界の見方の発見を伝えることが大切だ」

誰も教えてくれない人を動かす文章術 (講談社現代新書) 齋藤孝

【結論】すぐれたコンテンツとは

文章においてはテーマ、文体、ことば。映画においては映像、カット、シーン。音楽においては歌詞、曲調、リズム。それぞれの要素を組み合わせて、ごちゃまぜにして、表現に個性を出すゆがみやノイズを与える。そのようにして、凡庸からの脱却をはかる

さらに新規性、ニュース性、話題性、オリジナリティ(ストーリーではなく、表現としての)などの要素を加えて、練磨していく。もちろん、掲載する媒体(メディア)の特性を考慮しながら。すぐれたコンテンツへの道のりがみえてきました。

結論ですすぐれたコンテンツは、“わかりやすい”が基本。王道のストーリーを媒体ごとに理解し、使い分け、表現において独自性を発揮すること。それが、すぐれたコンテンツに近づくための秘訣ではないでしょうか。

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