マジメな人は読者におもねる小説を書け!『一億三千万人のための小説教室』高橋源一郎

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一億三千万人のための小説教室 (岩波新書 新赤版 (786))

一億三千万人のための小説教室 (岩波新書 新赤版 (786))

小説はどのように書かれるのか。

あるいは、どうすれば小説が書けるのか。それも巷にあふれているような三文小説(私の父は好んで読んでいた)ではなく、心ある人から「なかなか面白い」と言ってもらえるような作品を。 

テーマを設定する。集めた素材を「章、節、項」に分類する。好きなところから書きはじめてみる。書き終わったら推敲する。誰かに読んでもらい、感想を得る。意見を参考にして手を加える。くり返し研鑽(けんさん)をつむ。

そうしてようやく完成するのだ。毒にも薬にもならない三文小説が。


読者に“おもねる”ベストセラー

ベストセラーを書きたいのであれば、上記の方法は悪くない。

もちろん、きっちりと市場調査からはじめよう。本屋を巡り、Amazonや楽天をチェックして読者のニーズを探る。テーマは、読者層の絶対数(つまり「パイ」)を考慮して決める。戦略的に章立てを組む(読者が買いたくなるように!)。そうやって「読者におもねる」のだ。

ただ、多分その作業は「ちっとも楽しく」ない。もしかしたら、作業の途中で(それは「作業だ!」)自分はなぜこんなことに時間を費やしているのかと疑問を抱いてしまうかもしれない。そして「そうだ! 印税で生活するんだ!」と奮起できれば良いが、投げ出してしまえばそれまでだ。「誰が小説なんか書くか」と。

本質に立ち返ろう。なぜあなたは小説を書くのだろうか? 

たしかに楽しく書こうと、作業として書こうとも、「売れる保障などまったく」ない。だから楽しく書こうと言いたいのではない。「楽しく書かなければ小説など書く意味が無い」と言いたいのだ。お金は「働かなくては」手に入らないのではなく、「世の中に価値を提供しなければ」手に入らず、そうでなく手にした金は例外なく泡となり消えるのだ。だから働こう。小説は関係ない。

小説に期待してはいけない。期待すべきなのは「書くことで得られるモノ」、そしてその行為そのものに対してだ。ベストセラーはその結果でしかない。ガッカリした? それもまた小説であり、人生の一部だ。楽しもう。

自分だけの小説を書くために

本当に良い作品を書きたいのなら『一億三千万人のための小説教室 (岩波新書 新赤版 (786))』を参考にすることを勧める。少なくとも、間違った方向に苦しみながら進むのではなく、正しい方向へとあがき続けることができるだろう。栄光をつかめるかどうかではなく、希望の光が道程を照らす。それが楽しい。それこそ良い人生だ。

とくに重要なポイントをあげるなら次の3つである。

1.ひとりで考える

小説の書き方を的確に指導できる人が少ないのは、明確な答えが「無い」からである。

技術的な部分においての「書き方」ならある。だがそれは、小説の書き方ではなく、「文章の書き方」だ。良い文章をかける人がかならずしも良い小説を書けるとは限らない。絵が上手な人が、必ずしも人気漫画家にならないように。

答えは「ひとりで見つける」しかない。ただしヒントはあふれている。

2.小説と遊ぶ

小説は「娼婦」のようなものだ。

遊んでいるうちは楽しいが、マジメに付き合い始めるとこれほどつまらないものはない。お互い遊びだからこそ青春を謳歌できる。家庭に青春があるかどうかは分からないが、結婚はどちらかと言えば残暑みたいなものだ。蒸しっぽいが、ただ耐えるしか無い。

小説とトコトン遊んでみよう。ゆっくり近寄って、 全面的に受け入れて、ときには突き放して、徹底的に真似をして。知るのではなく「五感で戯れる」のだ。いずれ血となり肉となる。

3.知っていることを書く

小説の輪郭が見えてきた。あとは「知っていること」を書こう。

小説について考え、徹底的に遊べば、あなたはもう小説を書くことができる。20年も生きていればネタはすでに「たっぷり」ある。頭のなかにある言葉を、小説によって蘇らせよう。

完成した作品には、見たこともない表現ばかりが「飛んだり跳ねたり」していることだろう。

ヒトコトまとめ

より良い小説を書くには

ひとりで徹底的に考え、好きな小説とトコトン遊び、ほんとうに知っていることを書く。

お付き合いありがとうございました。多謝。

<目次>

まえがき ― 一億三千万人のみなさんへ
基礎篇
レッスン1    小学生のための小説教室
レッスン2    小説の一行目に向かって
レッスン3    小説はまだまだはじまらない
レッスン4    小説をつかまえるために、暗闇の中で目を開き、
沈黙の中で耳をすます
実践篇
レッスン5    小説は世界でいちばん楽しいおもちゃ箱
レッスン6    赤ちゃんみたいに真似ることからはじめる、生まれた時、
みんな、そうしたように
レッスン6・付録 小説家になるためのブックガイド
レッスン7    小説の世界にもっと深く入ること、そうすれば、いつか
レッスン8    自分の小説を書いてみよう
あとがき

<著者>

高橋源一郎 たかはし・げんいちろう
1951年広島県生まれ。横浜国立大学除籍。作家。小説に、『さようなら、ギャングたち』(講談社、群像新人長篇小説賞優秀賞)、『優雅で感傷的な日本野球』(河出書房新社、三島由紀夫賞)、『ペンギン村に陽は落ちて』(集英社)、『日本文学盛衰史』(講談社、伊藤整文学賞)、『官能小説家』(朝日新聞社)、『君が代は千代に八千代に』(文藝春秋)ほか。評論に、『文学なんかこわくない』『もっとも危険な読書』(ともに朝日新聞社)ほか。

<類書>

書きあぐねている人のための小説入門 (中公文庫)
保坂 和志
中央公論新社
売り上げランキング: 25,332
ベストセラー小説の書き方 (朝日文庫)
ディーン・R. クーンツ
朝日新聞社
売り上げランキング: 4,528

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