人はいつか死ぬ。
この不確かな世の中にある紛れもない事実はそれだけかもしれない。ただ、私たちが他の生命体と違うのは、「いつか死ぬということを理解している」ことだ。だからときに、自分にとって不利益なことにも果敢に挑戦する。
森での生活はまさに「不利益への挑戦」と言えるだろう。文明の利器、化学の最先端、人との協力を捨てるのだ。それらがいかに、人間社会に繁栄をもたらしたかを理解していながらも。
ソローはそこで何を見、何を感じたのだろうか?
膨大な時間の広がり
社会は急速に進化している。
技術は私たちの暮らしを豊かにし、加えて、人の営みがさらに利便性を高める。身の回りにはなんでもある。居・住・食はもちろん、書籍に映画に動画に音声にそして世界中の情報がいつでもどこにいても手に入る。
とどまることの無い進化は、私たちを十分に満たし続ける。満足度を高める。このままゆけば、世の中に溢れるありとあらゆる不平不満が解消される日もそう遠くはないのではないか。
しかしそうはならないだろう。なぜなら、必要な物が満たされ、不必要な物が満たされ、積み重ねられ、やがて身動きがとれなくなってしまうからだ。
科学の進歩によって圧倒的に足りなくなってしまったもの。それが、「自分の頭で考える」時間と能力だ。
本当に考えるべきことを考える
自分が本当に考えるべきことについて考える時間がなくなること。動機がかき消されて考えることをやめてしまうこと。それがどれだけ恐ろしいことか。気づいている人は少ない。
つまりはこういうことだ。真っ暗闇の中をさらに目をつむって規則正しく行進すること。
昔は目を開けたまま、手探りで進むことができた。そこには不安や恐怖があったけれど、それは生きる上で当然生じる「緊張感」だったのだ。
ただ現代では、巧妙に麻痺させられている。あたかも人生に不安や恐怖、予測不可能な何かがなくなってしまったかのような錯覚。いずれは死の恐怖すら忘れたまま、人生が200年も300年も続くのが当たり前なのだと思い込みながら、奴隷として生き続けるのではないか。
それがどれだけ恐ろしいことか。
自分を取り戻すために森へ
もし、私がソローのように森を希求するとしたら、動機はそこにある。つまり「自分を取り戻す」のだ。
1.自分というたったひとつのオリジナルな人生を
人生に地図はない。
あるのは見本となる地図ぐらいなもので、個々の人生が似通っていることはあっても同じということはない。自分の人生は間違いなく「たったひとつ」なのだ。あなたが子供の頃には、それを自覚していたはずだ。
だから、考えるのをやめてしまったことを思い出して、他人の人生に興味をもつのではなく、自分の人生を真正面から見るようにしよう。目をそらさずに。
2.偏見なく「本質」について考える
社会には偏見が多すぎる。
突拍子もないこと、野蛮なこと、大それたこと、無茶のこと、矛盾なこと。いいじゃないか。自分だけの、たった一度の、オリジナルの人生なのだから。偏見をなくせば、そんなことは当たり前だと思える。
自分が本当に大切だと感じる人生の価値はなんだろう? 心の中の泉から湧き出ててくるワクワクするような思想はなんだろう? 目をつむって心と対話してみる。やがて本質が見えてくる。
3.自由な思想を楽しむ
思想は“自由”でいい。
反論も、固定概念も、常識も宗教もいらない。まっさらな心で自然と対峙しながら、本当にするべきことや、あるべき姿について何日も何日も考えてみる。自由だ。思想には法律もの支配も刑罰もない。
偏見を捨てるのに遅すぎることはない。選択の余地は無数にある。荷物が引っかかって門をくぐれないということもない。真実はつねに変わり、できっこないと思われたことが明日にはできるようになる。
ヒトコトまとめ
森での生活は
新たな新芽とともに何度でも生まれ変わる「思想の集積」=「人生」を体感できる。
お付き合いありがとうございました。多謝。
<目次>
1 経済
2 住んだ場所とその目的
3 読書
4 音
5 孤独
6 訪問者
7 豆畑
8 村
9 池
10 ベーカー農場
11 より高き法則
12 動物の隣人たち
13 暖房
14 先住者――そして冬の来訪者
15 冬の動物
16 冬の池
17 春
18 結び
19 解説――ヘンリー・D・ソローの生涯
20 年譜
<著者>
ヘンリー・D・ソロー
1817‐1862。米国マサチューセッツ州コンコード生まれ。ハーヴァードに学んだ後、執筆活動と成人教養講座での講義に力を注いでいたが、1845年夏、人里離れたウォールデン湖畔の小さな小屋に移り住み、自然の中で、植物や、鳥・小動物・魚たちとのシンプルな暮らしを始めた。『森の生活』はその2年2ヶ月の生活記録であると同時に、深い思索の書として、自然と人生を愛する世界の読者に今も読み継がれる歴史的名著である。
<類書>
イースト・プレス
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