「人は、文章を読まない」
いや、実際には読むには読むのだが、必要最低限の文章しか読まないという意。だから、書き手はその点を踏まえて、つまり「読まれない」を前提で文章を書かなければならない。あるいは心構えとして。
「文章を書くのは簡単だ。デスクについて、ただ血を流せば良い」と言った作家がいたが、もし書いた文章が読まれないとすれば。作家は報われること無く、無慈悲にも血は流れ続けるのだろうか。
否、そうではない。心ある読み手にもっと読んでいただけるように、“読まれる文章”を書けば良いのだ。
読まれる文章を書くために
『書いて生きていく プロ文章論』の内容は、そういった“読まれる文章”の書き方についてだ。しかも著者は潔いことに、「自分は文章を書くのが苦手だった」と暴露し、さらに「文章の技術よりも文章を書く上での心構え」を重視して文章を書いてきたと述べている。
後半の方では一部「文章術」めいたことも書かれてはいるが、なるほどたしかに心得が多い。とかく技術やテクニックに頼りがちな頭でっかちな文章家には、得るものが多いであろう。いわく、私もそのたぐいの人間である。
著者の上坂徹さんは『プロ論。―情熱探訪編 (徳間文庫)』 などのベストセラーを数多く手がけている凄腕フリーライターだ。そのような方が、文章術よりも心得の方が大切だと言うのだから、我々のような文章家のはしくれも考えを改めなければならないだろう。
ポイント
この本のポイントは3つある。
- 「具体的に」ターゲットを設定する
- 文章の目的をしっかりと認識する
- 自分が理解してることをやさしい言葉で
いずれにしても、文章術ではなく、あくまでも心得であることに着目してほしい。
1.「具体的に」ターゲットを設定する
ターゲットを設定しなくとも、文章は書ける。しかし、ターゲットが不明確であれば、誰の心にも響かない可能性が高い。他人の日記がつまらないのはそのためだ。そこには「モノ・コト」の羅列があるだけで、メッセージが無い。読み手を意識していないから無理もないのだが、あるのは思い出だけで、“文章としての楽しさ”は皆無だ。
ターゲットの設定は具体的であればあるほど良い。年齢、性別、出身地、住まい、学歴、仕事、家族構成etc……。可能ならば、知人や友人を設定するのも面白そうだ(偏りがあるかもしれないが)。
そして、ターゲットが目の前にいると仮定して文章を書いていく。もちろん、あらかじめ「どんなことに興味があるのか」「どんな疑問をもっているか」について、思いを巡らせておく必要もある。それが文章の構成を決め、インタビューの質問項目となる。
徹底的に、具体的に読み手をイメージすること。これがまず1点。
2.文章の目的をしっかりと認識する
また、文章の目的をしっかりと認識することも重要だ。目的がない文章は人の心に引っかからない。
日記ばかり槍玉にあげて申し訳ないが、日記の目的を明確に認識して書いている人はどのくらいいるだろうか。その目的とは、自分を記録しておくため?それとも頭を整理するため?なるほどたしかに、他人が読んでもつまらないわけだ。目的が、誰かに読まれることを前提としたものではないのだから。
もしあなたがこれから書く文章が、他人に読まれることを前提としたものならば、目的を忘れてはならない。新聞記事であれば情報を正確にそして簡潔に伝えるべきだし、ECサイトの宣伝文章ならクリックしてもらう必要がある。知的さをアピールしたいなら難しい言葉や横文字を解説抜きでいれたり(不親切だが)、友達がほしいならフレンドリーでツッコミやすい文章を心がけるべきだ。それが文章の精度をあげてくれる。
文章の目的をしっかりと認識する。これが2点目。
3.自分が理解できていることをやさしい言葉で
最後は「自分が理解できていることをやさしい言葉で書く」ということ。個人的にはこれが一番重要なポイントだと思う。
読まれない文章のほとんどが、自分が理解できていないことを難しい言葉で表現している。だから、読んでも意味がわからないし、意味がわからないものは誰が読んでもつまらない。 よくよく考えてみるとしごく当然のこと。
ただ、これを実践するのはまことに難しい。そもそも、自分が本当に理解できているかなんて、実際に書いてみたり人に話してみなければわからないものだ。そこで反論されたり質問されたとき、はじめて自分が理解できていなかったことに気づく。おそらく、ほとんどの「おとな」がそうなのではないだろうか。もちろん、私もそのくちだ。
しかしそれでも、自分に嘘をつかないように日頃から心がけることはできる。わからないことはわからないと言い、自分が理解できたときにはじめて、その「理解できた言葉」で人に伝える。
良くも悪くも「裸の文章」こそが、人に読まれる秘訣なのかもしれない。
ヒトコトまとめ
もっと人に読まれる文章を書くには
具体的なターゲットを設定し、
文章の目的をしっかりと認識しつつ、
自分で理解できることをやさしい言葉で書く。
お付き合い、ありがとうございました。多謝。
目次
はじめに
第1章 その文章は誰が読む?
第2章 伝わる文章はここが違う
第3章 プロ文章家の心得
第4章 「話す」よりも「聞く」のが大事
第5章 プロの取材はこう行う
第6章 「書く仕事」のキャリア作り
第7章 「職業文章家」として生きるには
コラム1 ライターという職業
コラム2 雑誌記事を作る
コラム3 書籍を作る
おわりに
類書