現在、キャリア形成の一環として、大学院への進学を目指しています。思えば、フリーランスのライターとして独立してからというものの
・日本エディタースクール(文章講座)
・慶應義塾大学(法学部政治学科)
・近畿大学(図書館司書コース)
などなど、日々の自己研鑽と合わせて、各教育機関等でもさまざまな学びを得てきました。
そのすべては、仕事はもちろん、人生に生かされていると確信しています。
放送大学大学院の受験に必要な3つのこと
さて、大学院に関しては、学修・研究内容と仕事および生活リズムのバランスを考慮し、「放送大学大学院」の「社会経営科学プログラム」を受験したいと考えています。
放送大学大学院(修士全科生)に進学するには、主に
①書類選考
②第1次選考(筆記試験)※プログラムによって異なります(「専門科目+英語」など)
③第2次選考(面接試問)※第1次選考の合格者のみ
の3つをクリアしなければなりません。とくに本稿では、これらのうち「①書類選考」のポイントについて見ていきましょう。
「書類選考」に必要なもの
提出する書類は、大学等を卒業した人であれば
・出願票
・卒業証明書(原本)
・学業成績証明書(原本)
・研究計画書
・志望理由書
となります。
出願票は、資料請求で取り寄せたうえで郵送するか、インターネット出願でも対応可能です。ただし、入学検定料の領収証書は郵送が必須となります。
・資料請求(出願年のもの)
・インターネット出願(出願期間に注意)
卒業証明書や学業成績証明書は、卒業した大学から取り寄せます。大学によっては日数がかかる場合もあるため、早めの手配が大事です。大抵は有料です(数百円ほど)。
ここまでは、それほど苦労せずに用意できるかと思います。問題は、「研究計画書」と「志望理由書」の作成です。
研究計画書の作成
研究計画書に記入する内容は、「1.研究題目」「2.研究計画」「3.希望する研究指導担当教員」「4.授業科目」の4つです。
1.研究題目
入学後、どのような主題を研究したいと考えているのか具体的に記入してください。(40字以内)例えば、「通信制大学院について」といった大まかな表現ではなく、「これからの通信制大学院における指導方法についてー放送大学大学院を通してー」など、何を研究しようとしているのかがわかるように記入してください。
2.研究計画
「1 研究題目」の入学後の学習や研究の進め方などを具体的に記入してください。(1,000字程度)
3.希望する研究指導担当教員
同封の「修士課程案内」を参照し、所属を希望するプログラムに在籍する本学専任教員の中から、希望する研究指導担当教員(1名)を記入してください。希望する教員がいないときは、「なし」と記入してください。研究指導担当教員は、出願時の研究計画書および入学者選考の結果等を総合的に勘案して、本学が最適と判断した教員に決定しますので、必ずしも希望通りになるとは限りません。なお、研究テーマによっては、客員教員が研究指導を行うこともあります。
4.授業科目
「2 研究計画」に記入した研究を進める上で関連が深いと思われる授業科目を、出願するプログラムの授業科目から、関連の深い順に3科目記入してください。既に修士選科生、修士科目生として履修、修得している科目を記入することも可能です。記入にあたっては「授業科目概要」または「授業科目案内」を参照してください。
※これらに加えて、卒業した大学等で卒業研究(論文・作品等)を作成している方は、その題目と概要を記入します(作成していないかたは「なし」と記入)。
このうち、「1.研究題目」「3.希望する研究指導担当教員」「4.授業科目」については、支持されている内容に従って作成すれば問題ないでしょう。
むずかしいのは「2.研究計画」です。こちらに関しては、研究するテーマを決めたうえで、必要事項をまとめておく必要があります。
「2.研究計画」の書き方
研究計画の構成としては、1,000文字以内という制限を考慮し、
1.先行研究
2.問題意識と研究の目的
3.研究計画と研究方法
の3項目でまとめるとバランスが取りやすくなります。
つまり、自分が研究したいテーマの先行研究を調べたうえで、問題意識と研究の目的を明らかにし、研究計画と研究方法を考案します。
まずは、Google ScholarやCiNii Articlesを使って関連する論文を収集し、そこから参考文献をたどっていくのが王道でしょう。できるだけ、すべての資料に目を通します。
合わせて、政府機関や学会、各種団体等のサイトや季刊誌などもチェックしておけば、必要な情報を収集することができます。
その過程で、問題意識や研究の目的、研究計画、研究方法も深まります。例として、私が作成した研究計画書を紹介しましょう。
研究計画書の例
※実際の提出時は、1000文字以内に編集しています。
研究題目
「フリーランス・ライターのキャリアパターンとその形成過程―業界の構造に着目して―」
1.先行研究
近年、フリーランス、個人事業主、独立自営業者などの「雇われない働き方」が注目されている。1)
フリーランスの経済規模は、2015年の14.3兆円から2017年は18.5兆円へと増えており、2018年には20兆円を超えた。2)新聞に「フリーランス」という言葉が登場した回数もここ数年で伸びており、「働き方改革」や「1億総活躍社会の実現」などの政策にも関連している。3)
ある調査によると、自身で事業等を営んでいる者は、本業で約290万人、副業で約100万人いると試算されている。4)別の調査でも、本業フリーランスが約300万人、副業フリーランスが約140万人いると試算されているなど、全就業者に占める割合が1割に近づきつつある。5)また、フリーランス人材を活用している企業は 18.9%だが、33.5%が今後の活用を検討していると回答している。6)このように、日本経済、国の政策、働き方の多様化など、各方面からフリーランスへの関心が高まっていることは間違いない。7)
新しいキャリアの概念としては、「バウンダリレス・キャリア(Arthur & Rousseau,1996)」や「プロティアン・キャリア(Hall,1996)」などの研究が進み、とくに日本のフリーランス研究に関しては宇田10)11)や松永・永田12)、北出13)などがあるものの、フリーランサーのキャリアパターンを掘り下げる研究は少ない。
2.問題意識と研究の目的
フリーランスに対する社会的関心の高まりや、変わりゆく個人の働き方、さらには時代の変化に応じた企業の人的資源管理等を踏まえると、今後はいつ、誰が、どのようなタイミングでフリーランスとしての生き方を選択してもおかしくない。新卒や定年後、さらには転職や復職の選択肢にもフリーランスが加わるようになると筆者は考えている。そこで本研究では、フリーランサーのうちとくに「ライター」に着目し、フリーランスのキャリアパターンについて分析したうえで、いくつかの分類や方向性を提示したい。
3.研究計画と研究方法
「雇用類似の働き方に関する検討会」で行われている検討結果や他の研究動向を踏まえたうえで、文献研究を通じ、国内外のフリーランス・ライターのキャリアについて調べる。その際、広告業界や出版業界の現状についても分析する。また、現役フリーランス・ライターや利用企業、関連団体にインタビューを行い、キャリア形成の動向や考え方を分析し、固有のパターンを見出していく。さらに、近年フリーランスの入口となりつつあるクラウドソーシングにも着目し、キャリア支援の動向についても調査したい。
参考文献
1)中小企業庁(2019)「小規模企業白書 2019」中小企業庁ウェブサイトより
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/syoukiboindex.html
2)ランサーズ(2018)「フリーランス実態調査2018年版」ランサーズウェブサイトより
https://www.lancers.co.jp/news/pr/14679/
3)日本政策金融公庫(2018)「なぜ今、フリーランスなのか―雇われずに働くという選択―」日本政策金融公庫調査月報No.118
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/tyousa_gttupou_1807.pdf
4)独立行政法人労働政策研究・研修機構(2019)「雇用類似の働き方の者に関する調査・試算結果等(速報)」厚生労働省ウェブサイトより
https://www.mhlw.go.jp/content/11911500/000501194.pdf
5)リクルートワークス研究所(2018)「全国就業実態パネル調査」リクルートワークス研究所ウェブサイトより
https://www.works-i.com/surveys/panel_surveys.html
6)経済産業省(2017)「雇用関係によらない働き方に関する研究会 報告書」経済産業省ウェブサイトより
http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/20170330001.html
7)独立行政法人労働政策研究・研修機構(2019)「「独立自営業者」の就業実態」JILPT調査シリーズNo.187
https://www.jil.go.jp/institute/research/2019/187.html
8)Arthur,M.B. & Rousseau,D.M.(1996)「The boundaryless career as a new employment principle.」Oxford University Press.
9)Hall,D.T.(1996)「Protean careers of the 21st century.」Academy of management Executive,
10)宇田忠司(2007)「境界のないキャリア概念の展開と課題」北海道大学経済学研究
11)宇田忠司(2009)「フリーランスの言説スペクトル」北海道大学経済学研究
12)松永伸太郎、永田大輔(2017)「フリーランスとして「キャリア」を積む アニメーターの二つの職業観から」日本オーラル・ヒストリー研究第13号
13)北出真紀恵(2011)「フリーランスとライフキャリア―フリーアナウンサーを事例として―」東海学園大学研究紀要第16号
ちなみに、調査を通じてチェックした雑誌やサイトには次のようなものがあります。
【雑誌】
・経営行動科学学会 学会誌
https://jaas-org.jp/news/paper/
・日本労働研究雑誌 独立行政法人労働政策研究・研修機構
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/index.html
・ビジネスレーバートレンド 独立行政法人労働政策研究・研修機構
https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2019/08_09/index.html
・キャリアデザイン研究 日本キャリア学会
http://www.career-design.org/maga/03.html
・『日本労働法学会誌』(日本労働法学会編)
https://www.rougaku.jp/contents/gakkaisi.html
・日本政策金融公庫 調査月報
https://www.jfc.go.jp/n/findings/tyousa_gttupou.html
・日本政策金融公庫論集
https://www.jfc.go.jp/n/findings/kouko_ronsyu.html
・大原社会問題研究所雑誌(大原社会問題研究所編)
https://oisr-org.ws.hosei.ac.jp/oz/
【サイト、活動】
・小規模企業白書
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/syoukiboindex.html
・雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_01811.html
・全国就業実態パネル調査(リクルートワークス研究所)
https://www.works-i.com/surveys/panel_surveys.html
・フリーランス白書(フリーランス協会)
・国際労働機関(ILO)
https://www.ilo.org/tokyo/about-ilo/lang–ja/index.htm
・出版労連
http://syuppan.net/?page_id=42
・出版ネッツ
・日本マスコミ文化情報労組会議(略称MIC)
http://www.union-net.or.jp/mic/
・ランサーズ フリーランス実態調査(2019年度版)
レファレンスを利用しよう
研究計画書の作成に必要な資料がわからない・見つからない場合は、ぜひ図書館の「レファレンスサービス」を利用してみてください。
レファレンスサービスとは、学習・研究・調査を目的とした必要な情報の提供を、図書館員(司書)が代行してくれるサービスのことです。
あくまでも答えを提供してくれるわけではありませんが、必要な資料について教えてもらえるため、ぜひ頼るべきです。しかも利用は無料です。
最寄りの図書館でレファレンスサービスを利用してもいいですし、東京都立図書館などであればメールでも受け付けています。
志望理由書の書き方
次に、志望理由書について見ていきましょう。記入する内容は2つあります。
1.所属を希望するプログラム
所属を希望するプログラムの記号1つに◯を付けてください。
2.研究題目を決めた理由と、1で選んだプログラムを希望する理由
研究題目(研究計画書に記載したもの)を決めた理由と、1で選んだプログラムを希望する理由を具体的に記入してください。(700字程度)例えば、「現在の職務との関連、あるいは社会生活の中で、研究題目に関わる問題を深く考えるに至った経緯、選択したプログラムが研究題目を研究するためにふさわしいと考えた理由」などを具体的に記入してください。
とくに「2.研究題目を決めた理由と、1で選んだプログラムを希望する理由」については、700文字以内であることを考慮し、次のような構成でまとめるといいでしょう。
・動機と問題意識
・研究内容について
・卒業後の展望
以下、私が作成した志望理由書です。
志望理由書の例
1 所属を希望するプログラム
経営社会科学プログラム
2 研究題目を決めた理由と、1で選んだプログラムを希望する理由(700字程度)
現在の日本では、少子化に伴う生産年齢人口の減少や、育児・介護を含む複雑化する働き手のニーズなどを背景に、多様な働き方を選択できる社会の実現が急務とされている。
他方、企業や団体に所属しない働き手の代表であるフリーランスの数は増え続けている。クラウドソーシングサービス大手のランサーズによると、2018年度調査時点における広義のフリーランス人口は1,119万人を記録し、労働力人口の17%を占める結果となった。フリーランスを最も広義の意味でとらえていると思われるこの統計からは、今後、働き方の多様化が進むことにより、その数が増加していくことを予感させる。
私は二年間の副業・複業期間を経た後、2013年4月にフリーランスのライターとして独立した。独立後、数々の企業経営者や企業人、個人事業主等を取材して痛感したのは、時代の変化を加味したキャリア形成の参考となるモデルが不足していることである。
中でも、中長期的な視点を考慮したフリーランスの将来設計に限界を感じ、会社員に戻るケースは少なくない。このままでは、いたずらに働き方の多様化を推し進めることとなり、格差や二極化を加速させる要因となり兼ねない。そしてそれは、私を含む現役フリーランサーが目を背けずに取り組むべき課題である。
以上を踏まえて、私は「経営社会科学プログラム」にて「フリーランスのキャリア」を研究したいと考えた。とくに貴大学院であれば、人的資源という視点だけでなく、経済や社会、経営など幅広い観点から学びを深めつつ、フリーランスのキャリアについて研究することが可能であると確信している。
【参考文献】
・ランサーズ株式会社「進化するフリーランスの未来ーフリーランス実態調査2018ー」
https://www.lancers.co.jp/news/pr/14679/
受験の段階から“研究”をはじめよう
先行研究と資料収集、資料の読み込み、さらには資料のまとめなど、研究計画書の作成にはそれなりの時間がかかります。
そのため、「大学院に入学する前から研究はスタートしている」という意識で取り組んだほうが、得られるものは多いです。
私自身、研究計画書の作成を通じて、論文、雑誌、書籍など、さまざまな資料を収集・読み込むこととなりました。
しかし、それらの過程すべてが、間違いなく今後の研究につながっていると思います。