小説を書くために必要なたった1つのこと

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 小説を書くために最も大切なことは何かと考えてみると、真っ先に思い浮かぶのは、「1つの作品を最後まで書き上げること」である。完成した作品の善し悪しはともかく、なにはともあれ、作品を書き上げなければ何もはじまらないからだ。

 ただ一方で、事前準備よりもとりあえず書くことを優先する人の中には、勢い勇んで書きはじめ、しばらくはそれなりに書いてみるももの、やがてペースが失速し、嫌になり、どこかの段階で書くのを辞めてしまうことがあるようだ。

 そのような人こそ、「なぜ自分は最後まで書き上げられないのか?」を考えてみてほしい。そして、どのような長さの作品でもいいので、とりあえず最後まで書き上げることを目指してほしい。もちろん、妥協ではなく、納得いくかたちで「了」へと至るのだ。

 どのような作品もそうであると思うが、とにかく書き上げてみて、しばらく間を置き、そこからさらに手を加えてこそ、完成された作品へと仕上げられる。中には、10回以上も繰り返し手を入れて、ようやく納得できる場合もあるそうだ。

 だとすれば、とりあえず書き上げた段階というのは、あたかも「たたき」が出来上がった瞬間に過ぎないとわかる。極端な話、そこではじめてスタート地点に立ったとも考えられる。大切なのは、その後の推敲作業である。

 それにもかかわらず、「たたき」としての作品ができていない段階で断念していたら、いつまで経っても小説は書けない。また、小説家としての力量も高まっていかないだろう。なぜなら、必要なすべての工程を経験できていないのだから。
 
 では、1つの作品をとりあえず書き上げるために必要なことはなにか。それを考えてみよう。

■なぜ途中で筆が止まるのか?

 作品が書き上がらないというのは、途中で筆が止まることを指す。「書いてみよう」と思って筆を執ってみたものの、何らかの理由で筆が止まり、書くのをやめてしまう。それで書けなくなってしまう。

 そこで、書いてみようと思って「筆を執る」ときと、書けないなと思って「筆を置く」の間に何があるのかが大事になる。そこに、最後まで書けない理由があり、そこに存在する問題さえクリアできれば、とりあえず書ききれるはずだ。

 考えられるのは、次のような要因である。

1.世界が見えなくなる(状況把握)
2.いつ始まり、どこで終わるのか、わからなくなる(出発点と着地点)
3.登場人物が掴めなくなる(感情移入)

 1つ目の「世界が見えなくなる」とは、自分が書いている物語について、何があり、何が起こるのかがわからなくなった状態だ。小説の世界は空想であるだけに、基本的に、作者の頭の中にしかその世界がないはずである。

 その世界を文章として現世に降ろす作業が「執筆」や「創作」であるのだが、頭の中にある世界が見えなくなってしまえば、筆が止まるのは当然であろう。なぜなら、何を書けばいいのかわからなくなってしまうからだ。

 2つ目の「いつ始まり、どこで終わるのか」というのは、書いている物語の「スタート」と「ゴール」のことである。最初から書いている場合は、スタートが見えなくなることは少ない。しかし、物語の途中から書いている場合は、スタートが見えなくなる。

 また、自分がどの段階の話を書いているのかわからないと、ゴールが見えなくなってくる。人がいて、環境があり、そこで物語が進んでいても、どこに着地するのかわからなければ、ダラダラと日々が続くだけの、間延びした話になってしまうだろう。

 3つ目の「登場人物が掴めなくなる」というのは、自分が書いている人々のうち、とくに主人公やヒロインの内面や感情、行動原理、存在意義がわからなくなってしまうということだ。そうなると、書くべき必然性が見えなくなり、テーマもぼやけてしまう。

 どんな物語も、作者が「書くべき」と思うから書かれているはずだ。そしてその書くべき必然性が具現化したものこそ、主人公やヒロインなどの登場人物であり、彼らの行動や話す内容、選択、意思決定、それらすべてが必然性に裏付けされている。

 このように、「1.世界が見えなくなる(状況把握)」「2.いつ始まり、どこで終わるのか、わからなくなる(出発点と着地点)」「3.登場人物が掴めなくなる(感情移入)」という3点は、途中で筆が止まる原因となるだろう。

■筆が止まるのを防ぐためにできること

 では、どうすれば筆が止まるのを防げるだろうか。最も手っ取り早い方法としては、「環境」「スタートとゴール」「登場人物」を、書く前に明確にしておくことである。それらが確定されていれば、迷うことなく書き進められる。

 もちろん、考えながら文章を書ける人であれば、これらのことを事前に考える必要はない。特定のシーン、特定の人物、特定のスタート地点さえ与えれば、そこからスラスラと書き進められるだろう。ただ、そのような人は、筆が止まることで悩まないはずだ。

 そうでない人は、やはり、事前に「環境」「スタートとゴール」「登場人物」の3つを決めておくようにしたい。そしてできれば、確定させておきたい。あとから変えてしまうと、それによって方向性が見えなくなってしまうからだ。

 変えるべき必然性があるのであれば、あとから変えるのはアリである。しかし、とりあえず「書き上げる」ことを目指すのであれば、当初の設定(「環境」「スタートとゴール」「登場人物)を変えることなく、まずは書き上げてみてほしい。

 繰り返しになるが、書き上げることは最終目標ではない。そこから手を入れて、推敲に推敲を繰り返してこそ、作品は完成へと近づいていく。書き上げるのはスタートラインに立つことだ。だからこそ、まずは到達するべきなのだ。

■完成された作品の質について

 書き上げられた作品は、そのまま誰かに見せない限り、自分だけのものである。その作品がどれほど酷いものでも、レベルが低くても、まったくもって問題はない。それは自分だけのもの、しかも推敲前の「たたき」である。

 問題は、そこからいかに質を高められるかにかかっている。すぐに手を入れるのではなく、しばらく寝かせて、冷静な頭を取り戻してから、客観的に手を入れていくことが大事だ。やればやるほど質の高まりを感じられると、その作業は喜びになるだろう。

 それがわかっていても、筆が止まってしまうのなら、何度でも「環境」「スタートとゴール」「登場人物」を確認するといい。それらが明確になり、頭の中できちんと像を描いているのなら、再び筆をとれるようになるはずだ。

 兎にも角にも、まず、書き上げること。初稿を手にするためにのみ、書いてもいい。時間や労力、あるいはやる気に惑わされないよう、書く時間を決めて、粛々と、書いていく。一定のペースで走り続ける、ランナーのように。
 
 質のことなど、一切、考えなくていい。ただ、描いていたスタートとゴールを書き切れれば、それでいい。環境が明確で、登場人物もしっかりしていれば、あとは時間が解決してくれるだろう。ペースを乱さず、1文字1文字、積み上げていこう。

 モチベーションが問題になることもあろうだろうが、その場合には、書き上げた内容というより、「そのときまでに書いた文字数」を評価軸にするといい。1日1000文字書いていれば、10日で1万文字になる。その「1万文字」に酔いしれよう。

 そして自分を鼓舞しよう。数字が積み上がっていけば、ゴールまでの日数も見えてくる。積み上がっていくものが、自分の生み出したものだ。書き上げるまでのゴールが、着実に近づいている。そのようにして自分を励まそう。

■まとめ

・小説は「書き上げること」が何より大事
・書き上げるには、筆を止めないこと
・筆が止まる人は「環境」「スタートとゴール」「登場人物」を明確にしておこう
・1日の時間を決め、一定のペースで、粛々と書いていく

 とにかく書き上げることが、小説スキルを高めていく。目標を決め、書き上げるだけの忍耐力を養っていこう!

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