読書家がビジネスの観点で考える出版の未来

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フリーライターの永江朗さんの著書『「本が売れない」というけれど』によると、“活字離れ”という言葉は、必ずしも正確なものではない、ということだ。

どういうことかと言うと、確かにここ十数年で書籍の「販売金額」は低下しているものの、「書籍新刊発行点数」は増加しているのだ。これにはもちろん理由がある。


いわく、「リアルとネットの中古書籍」「図書館の充実」「読まれ方の多様化(ネットやスマホ)」が主な原因とのこと。なるほど、みんなが“新刊を定価で買う機会が減っている”ということである。これは、必ずしも活字離れを意味しない。つまり、本を定価で買わなくても活字に触れる機会が増えている、ということだ。

そもそも、本を読む人は読むし、読まない人は読まない。ぼくはスノーボードをするが、周りの人がやろうとやるまいと、ぼくはやる。それと同じ。活字離れといくら叫んでみたところで、結局読む人は一定数存在するのだ。いつの時代も。それは、これからも変わらないだろう。ただ、統計データに現れるような「新刊での購入」に変化があるだけで。なにせ、グーテンベルクが15世紀に活版印刷を発明して(諸説あるが)、それからたかだか600年しか経っていないんだぜ。書籍全部がなくなるなんて、少なくとも自分が生きているあいだには起こりそうにない。そして、自分が死んだ後の世界にまで責任をとるつもりは、ぼくはない。

そう考えるにつき、これからの書籍のありようを模索してみる。なんだかんだで、一番問題となるのは、やはり「どうやって収益を確保するか?」だと思う(一部の学術書を除けば)。せめて、制作にかかる費用(企画、編集、取材、ライティング、印刷、紙代(電子なら出版マージン))は、売上によって捻出しなければならない。さもなくば、金持ちの道楽になってしまうだろうし、別の部分でペイできなければ、やはり出版し続けるのは難しいだろう。たとえば、事業の宣伝や活動のPR、あとはまあブランディングとかウェブサイトへの導線とか(広義では宣伝と一緒か)。そうした目的があったとして、本当に読者に喜ばれるような内容にできるのかどうかは、ちょっとわからないが。

で、ここで取りうる戦略が、「出版のパッケージ化」だ。書籍が出版されてペイされるまでの流れは、おおむね決まっているはずだ。他の一般的な商品(たとえばハムとかポテチとか)と、特徴はあるにしても、そう大きくは変わらないだろう。文章だけで考えるとこんな感じだ。

企画→取材→構成→執筆→推敲→校正→出版

あとは、ここに表紙とかイラストとか図解とかが加わって、印刷会社とのやりとりなどもありながら、完成品を主に書店に営業をかけて売っていく。あるいは、セミナー出版パーティーなどを開催しながら、ソーシャルメディアなども活用しつつ販促していく。

そう考えると、これからの出版社は、分業でこれらの活動を一貫して行うべき、というか、そうしなければ回りそうもないと思う。逆に考えれば、これらの工程を踏めるのであれば、個人単位でも出版は可能なのだ。こと電子書籍ならば、ちきりんさんのように個人で出版してもかなりの売上を確保できる可能性がある(『「自分メディア」はこう作る! 大人気ブログの超戦略的運営記』参照)。もっとも、彼女の場合はブログやtwitterでの知名度があってこその販売部数だが。

ここで、もう少し突っ込んで考えてみると、「どこかしらの分野で知名度を高めさえすれば、書籍を出版してもペイできる可能性が高い」ということになる。一部の熱心な読書家は、コンテンツがお粗末だなどとAmazonあたりに誹謗中傷を書き込むかもしれないが、炎上しても売れることの方がある意味では重要な勘定ベースの出版においては(それはもちろん継続的に出版活動を行うということにもつながっていくのだけれど)取るに足らないことかもしれない。いや、クレームを言う人ほど文句を言いながら買い続ける消費の現場を鑑みるに、それもまた戦略の一部となりうるか。

いずれにしても、おびただしい数の新刊が日々発売されていることを思えば、コンテンツの良し悪しはどのくらい購買に影響を与えるのか、疑問に思えてくる。出版社本位で考えれば、価値のある(たとえば100年とか200年後も読まれるような)中身がなくても、とりあえず買われる可能性の高い著名人、有名人、タレント本などでペイしておいて、そこでプールされた資金を活用して、本当に良い物をつくり続ける方が無難だとすら思えてくる。そのときに、はたしてどのような著者が選ばれるのだろうか。予算さえあれば、いくらでも人的資源を投下できる(編集者、取材者、ライター、デザイナーなど)ことを考えてみても、「だれの本なのか?」が、もっとも重要になりそうだ。

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