文章も仕事も人生も「全体像」を把握すればうまくいく

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日々、さまざまな文章を読んだり書いたり、あるいは文章の指導やアドバイスをさせていただいたりする中でよく思うのは、「全体像を理解することの大切さ」についてです。

読んでいて「よくわからないな」と思う文章の多くは、全体像が見えません。全体像が見えないから、何について、どのようなことを述べている文章なのかがイメージできない。きっと、作者自身も全体像が見えていないまま、文章を書いているのでしょう。

これは仕事にも言えることで、その仕事がどのような全体像によって成り立っているのかを理解しないまま作業をはじめると、とりあえず言われたことしかできません。その結果、ミスもしますし段取りも悪くなる。全体像が見えないからです。

ここであらためて、全体像を知ることの重要性について確認しておきましょう。

■全体像がなければイメージできない

学校の授業などで「好きなことを書きなさい」と言われ、白紙に向かってみるものの、何も書けずに悩んでいる人がいます。いざ書き出してみたものの、出来事をただ羅列するだけの文章になるか、すぐに筆が止まってしまう。

考えてみれば当然です。その人は、自分が書くべき文章の全体像をイメージできていないのですから。

行動(執筆)しながら良い文章(作品)が生まれるなんていうのは錯覚です。「一流の作家はそうしている!」と反論する人もいるかもしれませんが、彼らは頭の中で、意識的・無意識的に全体像を描いて書いています。

ちなみに小説家の場合、プロットを先に考える人を「プロッター」、アウトラインを組まずに書き出す人を「パンツァー」と言いますが、後者の人は数多の中で無意識に全体像を描いており、そのような人が俗に“天才”と呼ばれているわけです。

■全体像を知ればやるべきことが見えてくる

さて、全体像の話を仕事に置き換えて考えてみましょう。

たとえば私は、学生時代に数々のアルバイトを経験しました。それこそ、ファミレスの厨房、オフィスの清掃、機械加工、食品工場などさまざまです。ただ、そのほとんどはすぐに辞めました。辞めた理由は「何をすればいいのかわからない」からです。

もちろん、マニュアルのようなものがある業務もあったのですが、読んでも全体像が見えてこない。全体像が見えないので、その都度「次は何をすればいいですか?」と聞かなければなりません。それがストレスとなり、また非効率的なのですぐ辞めました。

しかし、コンビニの深夜バイトだけは、学生時代の4年間、辞めることなく続けられました。その理由は、一冊のノートが用意されていたこと。そこに、手書きですが、時間ごとにやるべき業務やポイントがびっしり書かれていたのです。

私は、コンビニに勤めはじめてすぐ、そのノートを熟読しました。すると、深夜の時間帯にやるべき作業はもちろん、一般客や配送業者等の流れもイメージできるようになり、誰に聞くことなく仕事ができるようになったのです。だから続けられました。

■仮説と検証の土台となる成功イメージ

ただ残念ながら、社会人になってから経験した仕事の多くは、そのような全体像を理解できる資料がありませんでした。いま思えば独学すればよかったのですが、「見て・聞いて学べ!」という指導が中心であったこともあり、ただただ悶々としていました。

たとえば住宅関連の営業職についたときも、ロールプレイングをしただけで「あとは実際にやりながら覚えろ!」と言われます。実際に電話営業や訪問営業をしてみるのですが、大抵は門前で断られてしまう。少し話ができても、その先が続きません。

それはそうでしょう。私は仕事の全体像がまったく理解できておらず、成功イメージもなかったのですから。つまり、「会社の事業構造」「業界の成り立ちと仕組み」「各部門の仕事」「営業部の構造」「営業部の仕事内容」などがまったく分かっていなかったのです。

しかし全体像さえわかっていれば、まず「何をするべきか」がわかります。そして「誰にするべきか」も見えてくる。手順と対象がわかれば、行動と失敗(仮説と検証)を繰り返し、自らの能力に照らし合わせて「強化するべき部分」も見えてくるでしょう。

つまり、ビジネスモデル、顧客ターゲット、販売チャネル、提供価値、コスト構造、収益の流れを踏まえ、自分がやるべき仕事の細分化、そして改善ポイントも踏まえたうえで、日々の行動が最適できる。このような土台があってこそ、失敗に意味がでてきます。

全体像を理解したうえでする失敗は、仮説に基づく検証です。うまくいかない方法を検証することができれば、それは失敗というより「うまくいかない方法の発見」として次につながります。成功イメージというのは、そのようにして培われていくのです。

■論文の書き方と全体像の把握

文章に話を戻しましょう。たとえば、論文を書く場合で考えてみます。

論文の書き方については、指導者によって若干の違いがあるものの、おおむね「IMRAD形式」に則っています。IMRAD形式とは「Introduction」「Materials and methods」「Results and Discussion」「Conclusion」を加えたものです。

・序論(Introduction)
・材料と方法(Materials and Methods)
・結果と考察(Results and Discussion)
・結論(Conclusion)

これが論文の構成であり、全体像です。全体像を把握することによって、やるべきことが見えてきます。IMRAD形式という全体像を具体的な行動(やるべきこと)に落とし込むと、次のようになります。

石黒圭(2012)『論文・レポートの基本』日本実業出版社,pp17

このように分解してみると、「論文を書くには目的が必要だ」「まずは先行研究を調べよう」「資料と方法についてはどうしようか」「まとめる際には構成と論証についても確認しておこう」などと、具体的な行動につながるのがわかります。

その過程で、「自分はリサーチが苦手だから強化しよう」「論証には自信があるからここで勝負しよう」「問いの立て方を見直さなければならないな」というように、論文の質を高めるためにやるべきことがわかり、成果物の数と質の向上へと結びつきます。

■文章も仕事も人生も全体像を把握すればうまくいく

もちろん大学や大学院における学問は、研究成果を報告・発表するために論文があるのであり、その練習としてレポート課題もあるので、「とりあえず論文を書きましょう!」と言われることはないかと思います。それでも、書き方がわからずに悩む人は多い。

そこで、前提として、このように論文の構成と全体像を確認しておくと「ああ、小論文の書き方はここで生かされるのか」「レポートの意義はそういうところにあるのね」「いわゆる“作文”とは異なる方法論が必要だな」などと、気づけることになります。

その段階まで至れば、論文の書き方で迷うことはないかと思います。全体像が見えていれば、「そもそも研究ってどういうものだっけ?」などと本質的な疑問に向かうこともできますし、「そのために論文で書くべきこと」まで掘り下げることもできるでしょう。

ただ、そうした学びを学生時代にしていない人は、社会人になって「レポートを書きなさい」「企画書・提案書を書きなさい」「プレゼンテーションをしなさい」と言われても、満足にできるはずがない。なぜなら、論文の書き方がそれらのベースにあるからです。

さて、最後にタイトルにあるような人生についても考えてみます。人生の全体像とはつまり生まれてから死ぬまでの間を指すのですが、残念ながら私たちは、それらのあいだに横たわる時間的・空間的広がりのなかで生き抜くしかありません。

その点、人税の全体像をぼんやりとでも把握し、自分がやるべきこと・やるべきでないことをイメージできるようになれば、中長期的な目標設定はもちろん、年、月、日ごとに行動の取捨選択しやすくなるのではないでしょうか。

■補足1:小論文と論文の違い

本文で「小論文の書き方はここで生かされる」と書きましたが、補足として、小論文と論文の違いについて簡単にふれておきます。

「小論文」という言葉を辞書でひくと「短い論文(広辞苑)」「小規模の論文(明鏡国語辞典)」などと書かれているのですが、この定義は必ずしも正しいとは限りません。少なくとも、書き手の認識としては明確に“論文とは異なるもの”しておく必要があります。

たとえば、小論文が求められるシーンとしては「入学試験」「資格試験」「入社試験(公務員等含む)」などがあります。これらはその場で行われる試験の一部であり、通常の論文に求められる狭義の「調査」や広義の「研究」が必要ありません

そこで求められているのは、主に「①出題された問い・テーマに関する知識」と「②知識を文章として論述(論証)するスキル」です。以上のように、小論文は論文とは異なるものであり、そこで求められる能力は限定されていると理解するべきです。

■補足2:“改善”ではなく“イノベーション”を目指すには

全体像の把握と、それに基づく仮説・検証は、日々の改善につながります。ただ、「いま求められているのは改善よりもイノベーションだ!」と反論される方のために、イノベーションの元が全体像の把握をベースとしている点に触れておきたいと思います。

フラッシュメモリの開発者としても有名なイノベーターの濱口秀司さんは、著書『SHIFT:イノベーションの作法』の中で次のように書かれています。

ビジネスを経験すればするほど個人と組織に構築されていく既成概念ともいえる“バイアス”を打ち崩すため、まずはそれを構造化し、可視化する必要がある。
濱口秀司(2019)『SHIFT:イノベーションの作法』ダイヤモンド社[キンドル版]

具体的なバイアスブレイクの方法論や「ストラクチャード・ケイオス」と呼ばれるイノベーションの発想について知りたい方は本書を読んでいただきたいのですが、この「構造化」や「可視化」の前提となるのは、まさに全体像の理解ではないでしょうか。

そう考えると、イノベーションに至る道程にも全体像への理解のようなものが必要だと考えられます。ちなみに予防医学研究者の石川善樹さんも、構造や本質を発見するために必要な考え方を「大局観」と表現し、その重要性を強調しています。

参考文献

・石黒圭(2012)『論文・レポートの基本』日本実業出版社
・濱口秀司(2019)『SHIFT:イノベーションの作法』ダイヤモンド社
・石川善樹(2017)『仕事はうかつに始めるな』プレジデント社
・K.M.ワイランド(2013)『アウトラインから書く小説再入門』フィルムアート社

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