フリーランスの方にとって、「源泉徴収を引いた額をご請求ください」と言われるのは、日常茶飯事です。ただ、この源泉徴収について、よく知らない方もいるのではないでしょうか。
「ああ、報酬が減ってしまう……」と思うのではなく、源泉徴収について、正しく知っておくことが大切です。そこでこちらの記事では、フリーランスが知っておくべき源泉徴収の中身について、詳しく解説していきます。
源泉徴収とは
源泉徴収とは、所得税を納税するためのしくみです。
本来であれば、※給与や報酬を得た本人が、税金を納めなければなりません。いわゆる「納税の義務(日本国憲法第30条)」です。ただ、手間もかかるし、収納モレのおそれもあります。
手間とはつまり「確定申告」です。フリーランスの方が確定申告をしなければならない理由のひとつは、納税のためなのです。そして収納モレとは、納税義務違反であり、脱税となりかねません。
そこで、給与や報酬などの本体(源泉)から、あらかじめ所得税(「復興特別所得税」含む)を差し引いて(徴収)おき、支払者がまとめて納税するしくみが源泉徴収です。
※「給与」と「報酬」の違い
「給与」とは、雇用関係がある相手に支払うもの。「報酬」は、それ以外の支払いです。雇用関係があるかどうかは、指揮命令権の有無、最終的な責任の所在、資材の提供を受けているか、独立した状態といえるかなどを、総合的に勘案して判断されます。
※「給料」と「給与」の違い
・給料=基本給
・給与=基本給+各種諸手当(残業代、ボーナス、家族手当など)
源泉徴収はだれがするの?
では、だれが源泉徴収をしなければならないのでしょうか。
源泉徴収をする義務がある人のことを、「源泉徴収義務者」といいます。この源泉徴収義務者に該当するのは、次のとおりです。
会社や個人が、人を雇って給与を支払ったり、税理士などに報酬を支払ったりする場合には、その支払の都度支払金額に応じた所得税及び復興特別所得税を差し引くことになっています。
源泉徴収義務者になる者は、会社や個人だけではありません。給与などの支払をする学校や官公庁なども源泉徴収義務者になります。
しかし、個人のうち次の二つのいずれかに当てはまる人は、源泉徴収をする必要はありません。
(1) 常時2人以下のお手伝いさんなどのような家事使用人だけに給与や退職金を支払っている人
(2) 給与や退職金の支払がなく、弁護士報酬などの報酬・料金だけを支払っている人(例えば、給与所得者が確定申告などをするために税理士に報酬を支払っても、源泉徴収をする必要はありません。)
まとめると
①個人に給与や報酬を支払う法人(学校や官公庁も含む)
②個人に給与や報酬を支払う個人(ただし、上記の(1)(2)に該当する場合を除く)
が、源泉徴収義務者となります。
たとえば、フリーランスの方が、家族に対して「※青色事業専従者給与」を支払う場合には、あくまでも給与の支払いなので、源泉徴収義務者となります。
また、原則として、法人に報酬を支払う場合は源泉徴収の対象外です。例外として、馬主である法人に競馬の賞金を支払う場合にのみ、源泉徴収の対象となります。
※「青色事業専従者給与」とは
通常、生計を一にする者への給与は、経費として認められていません。しかし、青色申告をすれば、家族に支払う給与も経費として認められます。これが「青色事業専従者給与」です。ただし、事業開始あるいは雇用から2ヶ月以内に、納税地の所轄税務署長に「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出する必要があります。
新たに源泉徴収義務者になったら
もし、フリーランスの方が法人化したり、新たに給与の支払者になったら、とうぜん源泉徴収義務者になります。
その場合には、管轄する税務署に対して「給与支払事務所等の開設届出書」を提出しなければなりません。(1ヶ月以内)
ただし、あらかじめ「個人事業の開業届」を提出する際に、給与等の支払いをしている旨を記載している場合には、「給与支払事務所等の開設届出書」を提出する必要はありません。
源泉徴収の対象となる報酬について
源泉徴収の対象となる支払いには、個人への給与や報酬などがあります。そのうち、源泉徴収の対象となる“報酬”は、次のように定められています。
・原稿料や講演料など(ただし、懸賞応募作品の入選者などへの支払については、一人に対して1回に支払う金額が5万円以下であれば、源泉徴収をしなくてもよいことになっています。)
・弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
・社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
・プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
・芸能人や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
・ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
・プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
・広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金
かなり曖昧な規定なので、上記に記載されていない報酬を支払う場合でも、その都度、税務署か税理士に相談したほうがいいでしょう。
たとえば、「システム開発はリストにないから源泉徴収する必要はない」と勝手に判断してしまうのは危険です。税務判断は個別の状況で行われることも多いので、注意してください。
源泉徴収額の計算方法
支払いの内容によって、源泉徴収の金額(計算方法)は異なります。ここでは、報酬のうち、とくにフリーランスの方と関係が深い「原稿料や講演料等」について解説します。
計算方法は次のとおりです。
A.100万円以下の場合
「報酬額×10.21%=源泉徴収額」
ex.報酬額1万円の場合:1万円×10.21%=1,021円(源泉徴収額)
B.100万円超の場合
「(報酬額-100万円)×20.42%+102,100円=源泉徴収額」
ex.報酬額1,000万円の場合:(1,000万円-100万円)×20.42%+102,100円=1,939,900円(源泉徴収額)
考え方としては、
・報酬額が100万円以下の場合→「10%の所得税」+「0,21%の復興特別所得税」
・報酬額が100万円超の場合→「100万円分の源泉徴収額」+「100万円を超える部分に対して20%の所得税と0,42%の復興特別所得税(それぞれ割合が2倍)」
となります。
論点:消費税の取り扱いについて
源泉徴収の金額を計算するうえで、迷いがちなのが「消費税の取り扱い」です。
そもそも、消費税の納税義務があるのは、課税売上高が1,000万円を超える事業者に限ります。ただし、クライアントから消費税をもらうかの判断は、消費税の納税義務者かどうかとは無関係です。
なぜなら、相手のフリーランサーが免税事業者か課税事業者なのかをいちいち判断することはできませんし、フリーランサーであって、業務上に必要な経費については消費税を支払っているからです。
そのため、前提として、すべてのフリーランサーはクライアントに消費税を請求して問題ありません。
そのうえで、源泉徴収額の算出は、原則として、「報酬額+消費税」の額をもとに行います。たとえば、報酬額が1万円で消費税が800円だとすると、「(1万円+800円)×10.21%=※1,102円」となります。
※国税通則法119条により、源泉徴収金額の小数点は切り下げとなります。
ただし、次のような規定もあります。
弁護士や税理士などからの請求書等に報酬・料金等の金額と消費税等の額とが明確に区分されている場合には、消費税等の額を除いた報酬・料金等の金額のみを源泉徴収の対象としても差し支えありません。
つまり、請求書上で報酬額と消費税が別々に記載されている場合には、源泉徴収額は報酬額のみから計算していい、ということになります。(1万円×10.21%=1,021円)
わずかな違いではありますが、源泉徴収額を少なくしたい場合には、請求書に報酬と消費税を別々に記載するようにしましょう。
源泉徴収を納める方法
源泉徴収の納め方は、次のとおりです。
源泉徴収した所得税及び復興特別所得税は、給与を支払った月の翌月10日までに納付書を添えて国に納付します。
もちろん、納める先は「所轄する税務署」となります。また、以下のような特例も設けられています。
給与の支給人員が常時9人以下のときは、源泉徴収した所得税及び復興特別所得税の納期が毎月ではなく、7月と翌年の1月の年2回にまとめられる特例があります。この特例は、給与や退職手当、税理士などの報酬・料金について源泉徴収した所得税及び復興特別所得税に限られています。
この方法によって納めたい場合は、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出してください。
つまり、従業員が少ない場合(常時9人以下)には、毎月納めるのではなく、年2回のタイミングで納めてもいい、ということになります。
払い過ぎた税金は確定申告で取り戻そう
最後に、払い過ぎた所得税は、確定申告によって取り戻しましょう。
たとえば、源泉徴収で引かれた金額のなかに、経費などが含まれていることは少なくありません。源泉徴収額が実際の課税金額よりも多くなっている場合には、還付を受けられる可能性があります。
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