企業が従業員に報酬を分配する際の原則には、大きく「①必要性(need)原則」「②平等(equality)原則」「③衡平(equity)原則」の3つがあるとされています。
では、これらの原則はそれぞれどのような内容であり、日本企業の成果主義および従業員のモチベーションにどのような影響を与えているのでしょうか。みていきましょう。
3つの分配原則の違い
まずは3つの分配原則について、それぞれの違いを確認しましょう。次のとおりです。
①必要原理:必要としている者に対し、より多くの報酬を分配する
②平等原理:あらゆる条件を勘案せず、報酬を均等に分配する
③衡平(公平)原理:成果に対する貢献度に応じて報酬を分配する
このようにそれぞれの分配原則によって、同じ対象者でも、もらえる報酬の量が異なっているのが分かります。その背景にあるのは「公平感」です。公平感とはつまり、もらう側が公平さを感じられるかどうかということです。
その点について、社会学者のM.ドイッチュは、集団の目的によって公正感をもたらす分配原理は異なるとしていますし、W.デーモンは人の精神発達段階(発達年齢)、B.メイジャーとK.デューは男女の性別やジェンダーに基づく違いに言及しています。
成果主義を導入した日本企業の報酬分配
では、成果主義を導入した日本企業において、報酬分配の原則はどのように変化しているのでしょうか。
まず、これまでの「終身雇用」「年功序列」においては、横並びの報酬体系が基本でした。つまり「②平等原理」が機能していたことになります。
一方で、成果主義が導入されると、成果に対する貢献度に応じて報酬が支払われることになります。つまり「③衡平(公平)原則」へと移行することになるのです。
このことは、“成果に対する報酬”という観点から考えてみると、成果主義の導入によって、「報酬(評価)の平等」から「報酬(評価)の公平」へと分配原則が変化したと言えます。
変化した報酬分配の原則がモチベーションや行動に与える影響とは
成果主義の導入によって変化した報酬分配の原則。それにより、従業員のモチベーションや行動はどのような影響を受けているのでしょうか。
「期待理論」および「公平理論」の観点から考えてみしょう。
期待理論(ブルーム)
期待理論によると、「努力に対する報酬への期待(主観確率)」×「報酬に対する価値観(誘意性)」によってモチベーションが決まるとされています。
つまり、「努力に対する報酬への期待(人事評価)」が低く(やさしく)、「報酬に対する価値観(誘意性)」が高い者ほど、モチベーション高く仕事をすることができるのです。
このことは、「より報酬を望み」かつ「仕事ができる」人ほどモチベーションが高まり、「報酬に魅力を感じず」かつ「仕事ができない」人ほどモチベーションが下ることを意味しています。
公平理論(アダムス)
一方、公平理論によると、人は「過少報酬下」においては不公平感によるサボタージュを実行し、「過大報酬下」においては罪悪感による仕事努力へと結びつくとされています。
いずれの場合でも(度合いは異なれど)“不公平感”が生じることになります。
その結果、報酬が少ないと感じている者はモチベーションが低くなり(サボタージュ)、報酬が多いと感じているものはモチベーションが高くなる(仕事努力が増す)ことになります。
まとめ
たしかに成果主義の導入によって、より“公平”な報酬の分配が可能になったかもしれません。しかし一方で、従業員のモチベーションに悪影響を及ぼしている可能性もあります。
成果主義を導入する際には、そのような点にも注意しておくべきでしょう。