作家の村上春樹氏は、小説家にとっていちばん大事なものを「才能」、次に大事なものを「集中力」だと述べています。イメージとしては、才能というタンクから、集中力というホースで水を出すようなものでしょうか。(1)
たくさんの水(才能)を、口を細めた(集中した)ホースで噴出させる。すると、水が多いほど持続し、口を細めるほど遠くに飛びます。それが社会へのインパクト、あるいはファンの獲得につながるエネルギーになるわけです
ただし、才能をコントロールすることはできません。努力することはできても、生まれ持った才能を変えることはできないのです。だからこそ、いかに集中力を高められるかが、社会で活躍するために重要となります。
なぜ集中力が重要なのか
↑集中力がなければ、人生はメリハリのないものに。 (Concentration! / foxypar4)
集中力が重要な理由は他にもあります。もっとも特筆すべきなのは、「人生の時間は限られているから」というもの。人生には、いつか終わりが訪れます。長くても100年ほど。残された時間はそれほど多くはありません。
だからこそ、時間を有効活用しなければなりません。とくに、類まれな才能をもたない、多くの人にとっては。集中力の力をかり、ホースを細めて水を噴出させなければ、大した成果もあげられないのではないでしょうか。
“本当に若い時期を別にすれば、人生にはどうしても優先順位というものが必要になってくる。時間とエネルギーをどのように 振り分けていくかという順番作りだ。ある年齢までに、そのような システムを自分の中にきっちりこしらえておかないと、人生は焦点を欠いた、めりはりのないものになっ てしまう”(1)
集中力を阻害するのは「自分自身」
↑集中力は自分でコントロールするしかない。 (Office / jcorrius)
では、集中力はどのようなときに阻害されるのでしょうか。集中力がきれたシーンを思い浮かべてもらえばわかるのですが、その原因は「自分自身」にあります。なぜなら、集中力を阻害しているのは、自分自身の“意識”だからです。
たとえば、執筆作業をしていたとしましょう。ノートやパソコンに向かって執筆しています。しかし、しばらくすると、別のことが気になりはじめます。ご飯のこと、ニュースのこと、周囲の音……。きっかけはさまざまです。そのようにして、徐々に集中力が失われるのです。
そこで執筆の手を止め、他の作業をしてしまえば、集中は途切れます。ただ、執筆作業を中断するかどうかについては、自分自身が決めることです。邪念を振り払って執筆を続けるも、物思いに耽るも、他の作業をするも、すべては自分の決断次第なのです。
集中力の高め方
「集中力を阻害しているのは自分」ということをふまえて、集中力を高める方法について考えていきましょう。こちらでは、有効と思われるいくつかの方法をご紹介します。
・「ワンストップ・メソッド」
医学博士の森田敏宏氏は、著書『やる気と集中力の高め方』 において、「ワンストップ・メソッド」という手法を紹介しています。その手法とは、「ストップウォッチであらゆる時間を測る」だけ。それだけで、集中力がアップするそうです。
たとえば、出勤前の準備。顔を洗い、歯磨きをし、食事をして、スーツを着る。そういった細かな活動についても、ストップウォッチで時間を計測し、より早くできるように工夫する。その結果、ひとつひとつの行動に集中できるというものです。
“時間を測れば無駄に気づくことができる”(2)
・「ノマドワーキング」
↑場所を変えることで集中力を高めます。 (cafe / limaoscarjuliet)
ノマドワーカとして知られているコンサルタントの中谷健一氏は、「ノマドワーキング」によって集中力が高まると述べています。その理由は、自ら環境を変化させることによって、強制的に集中しなければならない環境を構築できるからです。
たしかに、働きなれているオフィスよりも、カフェやレストランのほうが集中できることがあります。人の目もあり、サボることに対しての罪悪感も強まります。一時的に集中力を高めるために、場所を変えるのもいいかもしれません。
“環境を変えて自分を物理的に追い込んでいくと、集中力が否応なく高まります”(3)
・「ルーティン」
↑パフォーマンスをあげるためにルーティンを欠かさない。 (Rugby / Mariana Amaro)
大リーグのイチロー選手やラグビー日本代表の五郎丸選手には、“決まった型”、いわゆる「ルーティン」があります。両者ともに、その仕草をマネをされるなど、愛されながら尊敬されています。彼らの集中力は、常人のそれとは大きくことなります。
では、なんのためにルーティンを行っているのでしょうか。諏訪東京理科大学教授の篠原菊紀氏は、その理由を「集中の儀式」あるいは「入りの儀式」として説明しています。つまり、強制的に集中させる作用を、自らに行っているということです。
“行動つきの儀式、言葉、さまざまなものが「入りの儀式」になりえます”(4)
・「ウォーキング&咀嚼」
集中力を高めるには、脳を活性化させることが大切です。カラダが疲れているときは集中力が低下するように、脳が眠っているときにも集中力を発揮することはできません。脳を活性化させる手法でオススメなのが、「ウォーキング」と「咀嚼(かむこと)」です。
ウォーキングは手軽にできる運動です。血流が増え、脳が活性化します。とくに山道であれば、視覚、聴覚、嗅覚が研ぎ澄まされ、脳がスッキリするそうです。また、咀嚼も同様に、脳の活性化に効果があります。ガムなどが手軽ですね。
“筋肉を動かすことで脳は活性化する。咀嚼で脳への血流量が増える”(5)
集中力を持続させるために
↑集中して休息をとる姿勢が大事。 (Resting / giskou)
集中力を高める手法については、もっとも自分にあったものを選ぶのがベストです。ムリに続けようとせず、楽しんで続けられるものを選択して、取り組んでみてください。
最後に、集中力を持続させるための注意点をご紹介します。それは、「休息時は休息に集中する」ということです。
いくら集中力を高める手法を行っても、カラダやココロが疲労していては効果がありません。疲れているのなら休む。疲れる前に休息をとる(積極的休息)。それが結果として、集中力を高めることにつながります。
“休息はなくてはなりません。そうでなくては、やる気も集中力も高まるわけがないのです”(2)
参考書籍
1.走ることについて語るときに僕の語ること/村上春樹
2.東大ドクターが教える、やる気と集中力の高め方/森田敏宏
3.「どこでもオフィス」仕事術―効率・集中・アイデアを生む「ノマドワーキング」実践法/中谷健一
4.勉強にハマる脳の作り方/篠原菊紀
5.1日3分! 指体操で元気な脳になる!/白澤卓二