「話すように書く」ために必要なこと

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 世の中にはさまざまな「文章の指南書」や「書き方の教科書」があります。その種類はさまざまで、国語、学術、ビジネス、日常など、用途や作成する意図、あるいは執筆者の専門性などに応じて方向性が多様化しています。

 もちろん、文章を書くということが個人的な営みであり、創造や創作といった要素を含むことから、絶対的な「正解」はないものと思われます。それでも、書けない現状を嘆いて、それらの書物を紐解いてみる人も多いのではないでしょうか。

 ただ、それらの多くは、文章を書く才能があるか、あるいはプロとして文章を書いてきた(能力を磨いてきた)人が書いたものです。そのような人の中には、文章指南を仕事として行ってきた人もいますが、やはり背景としては「自分で書いてきた」ことがあります。

 つまり、どれほどエッセンスを集約していたとしても、もともとたくさん書いてきた人があまり書いていない人に対して「こうしたらいい」「ああしたらいい」と指南すること自体、無理があることと言えるのではないでしょうか。

 そうかと言って、「とにかくたくさん書くといいよ」と一言で述べてしまうと書籍にならないため、枝葉末節を含めた「かくあるべき」を、それも個人的な体験を通じて得られた「経験的・実感的」な学びを、読者に共有しているのかと思います。

 そのため、残念ながら、それらの本をいくら読んでも文章を書けるようにはなりません。それまでよりも「巧みに」文章を装飾することはできるようになるかもしれませんが、あくまでも書くのは自分であり、他の誰かが書いてくれるわけではないのです。

 その点において、本当の文章指南が提供するものは、「書き手の負担を楽にする」ことに尽きるかと思います。「こうしたらいい」「ああしたらいい」と意識させながら文章に取り組ませると、結果的に、「文章を書くのは大変だ」と思ってしまうことになり兼ねません。

 そのうえで、最もわかりやすい「書き手の負担を楽にする」方法は、やはり「話すように書く」ことかと思います。なぜなら、話すことは私たちにとってごく負担のない日常動作であり、ただ話すことに関しては、そこに抵抗がないと考えられるためです。

■文章は「話すように書く」といい?

 では、本当に、文章は話すように書くといいのでしょうか。まず、「書きやすくなる」「執筆に取り組みやすくなる」という点においては、たしかに、話すように書くといいかと思います。それだけで、執筆のハードルは下がるからです。

 次に、内容についてはどうでしょうか。ハードルを下げて書きやすくしたのはいいのですが、そこから実際に「いい文章を書く」となると、それだけでは不十分であることがわかります。なぜなら本質的に、話すことと書くことは違うからです。

 その違いは、「親しい人との日常的な会話」と「大衆を前にする講演やスピーチ」が、向けられる意識も、話し方も、もちろん内容も異なるのと同じです。イメージとしては、カジュアルかフォーマルか、というぐらいの違いがあります。

 たとえば日常会話であれば、話に脈絡がなかったとしても、リアルタイムで修正しながらお互いの意思疎通を図ることが可能です。「井戸端会議」のように、お互いが言いたいことをただ言い合うだけでも、会話は成立してしまいます。

 一方で、講演やスピーチであれば、基本的に双方向のやり取りではありません。そのため、リアルタイムで発言を修正することは難しく、また話す順序や内容を工夫しなければ、聴衆は聞く耳をもってくれません。そのため、事前準備が欠かせません。

 同様に、文章を書く場合であっても、日常会話のように何も考えることなく書き進めてしまうと、できあがった文章はまとまりのないものとなってしまいます。それでは、何が言いたいのかわからない、ダメなスピーチのようになってしまうのです。

■書けない人にありがちなミス

 たしかに「話すように書く」のは、姿勢として大事なのですが、何が言いたいのかわからない文章になってしまっては困ります。それでは、「文章はできたけど、意義のある文章にはなっていない」ことになり兼ねません。

 そもそも「文章が書けない」というのには、「文章が浮かばない」というのと「書けた文章が伝わらない」という2つの側面があります。前者は「話すように書く」ことで解決できるのですが、後者はそうもいきません。

 これまで文章が書けなかった人が、話すように書くことによって書けるようになったとしても、その先にある「伝わる」について、再度、模索し直す必要があります。つまり、書けた文章を見直し、修正していく作業です。

 どのような文章にも、必ず加筆修正や推敲が必要なのですが、話すように書けるようになったあとは、つねに見直す癖をつけることが大切です。見直すことによって、できあがった文章の質がさらに向上し、「書けた文章が伝わらない」問題も解消できます。

 具体的な方法として、まず、書き上がった文章を読んで見ること。その場合の読み方には、「全体をざっと通して読む」「項目(見出し)ごとに読む」「一つ一つの文章に着目して読む」という、3つの方向性があります。

 全体をざっと通して読む場合には、細かいところは気にせず、論理構成や話の流れ、さらには意味が通るかなどの点を意識しながら、一気通貫できているかをチェックしていきます。スピードを早めて読みながら、違和感がないかどうかを見ていきましょう。

 次に、項目(見出し)ごとに読んでいきます。詳細に項目分けがなされていない場合は、段落ごとに読み進めていっても構いません。いずれにしても、文章のかたまりを見ながら、それぞれのつながりがスッキリしているかどうかをチェックしていきましょう。

 最後に、一つ一つの文章を細かく見ていきます。誤字脱字はもちろん、句読点の打ち方および打ち忘れなどにも気を使いながら、用語や漢字の選定、接続詞、文と文とのつながりなど、虫眼鏡で拡大するかのように文章をチェックしていきます。

 このように、「全体」「かたまり」「文章」という3つの段階でチェックしていけば、加筆修正や推敲も無理なく進められます。少なくとも、これら3つのレベルで書き上げた文章を確認し、精度を高めていきましょう。

 この段階を経ることによって、話すように書いた文章も、見違えるように良くなります。どんな文章のプロであっても、ざっと書き上げただけで立派な文章になるわけではありません。やはり、確認を通して仕上げているものです。

■話すように書くためのヒント

 書くことに慣れてくると、話すようにスラスラと書きながら、同時に加筆修正や推敲を進められるようになります。もちろん、ざっと書き上げてしまってから確認をしても構いません。自分なりのやりやすい方法を模索してみるといいでしょう。

 また、話すように書くというところから、「書くように話す」というように、会話と執筆を交互に考えてみるのもおもしろいかと思います。書くように話すとはつまり、最初に構成を考えてから、必要な内容を提供していくということです。

 話が苦手な人ほど、最初に何を話すべきなのかを考えておらず、また話す内容とその順序、あるいは構成についてもよくわかっていません。それらを事前に準備しておけば、何をどのような順番で話せばいいのかと迷うこともなくなるでしょう。

 実は、そのような発想は文章を書く際には当然のように行われています。文章の書き方を話し方に応用するだけで、そうした工夫ができるのです。「話すように書く」とは真逆のアプローチになりますが、そのように、交互の学習から得られるものは多いです。

 話すように書きながら、今度は書くように話してみる。そこで得た学びを、今度はまた書くことに応用してみる。そのように、執筆と対話のそれぞれから学びを得ながら、相互のスキルを高めていきましょう。ハードルを上げずに、継続することが大切です。

■まとめ

・「話すように書く」と気が楽になる。
・話すことと書くことは、本質的に異なっている。
・会話と執筆の違いを理解することが大事。
・それぞれから得られる学びを応用していこう。

 対話も執筆もコミュニケーションであることを前提に、両者を意識しながら執筆スキルを向上させていきましょう。

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