5年後、メディアは稼げるか――Monetize or Die?
メディアはどこへ向かうのか?
昨今のニュースサイト乱立を目の当たりにして、ふとそう思った。
ネット王者の「ヤフトピ」をはじめとするネット系、朝日や日経など新聞社をもつ新聞系、東洋経済やダイヤモンドなどの雑誌系、堀江貴文さんやイケダハヤトさんのようなブロガー、ソーシャルメディアを利用した個人メディアなどなど。最近ではスマートフォン向けニュースアプリも増えてきた。
もちろん既存のメディアも健在だ。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、そして書籍。媒体を超えたパイの奪い合いもあれば、テレビからPCサイト、PCサイトからスマートフォンアプリなどの相乗効果もある。まさに「メディア戦国時代」と言えよう。
ここで今、メディアに携わっている人が考えるべきことは何だろうか。確固たる地位の確保? たしかにそれもある。ただ、時代の寵児と呼ばれた人々はいつでももっと広い視野を持っていた。
そう、5年後10年後のビジョンである。
5年後のメディアを見据えて
『5年後、メディアは稼げるか――Monetize or Die?』 (以下本書)の著書である佐々木紀彦さんは、2012年に「東洋経済オンライン」の編集長に就任後、わずか4ヶ月で同サイトをビジネス誌系サイトNo.1に導いた敏腕編集長である。その佐々木編集長が考えるメディアの未来とは、いったいどのようなものだろうか。メディアの将来を危惧しつつ、本書では次のように語っている。
「どうすればジャーナリズムはウェブ時代に生き残れるのでしょうか。そのためにいちばん大事なのは「稼ぎ」です。多くの人がメシを食えるエコシステムです。それがなければ、いかにスゴ腕のジャーナリストがいい記事を書いても、メディアは救われません。」
この意見は、以下のイケダハヤトさん、堀江貴文さんの意見と似ている。
「紙のライターよ、「文章の巧さ」を誇る暇があるなら「マネタイズ」を頑張りなさい」
「紙媒体中心のライターだろうが、ウェブ中心のライターだろうが、ダラダラと長文書く奴は皆カス。」
(参考記事)
これからのメディアで稼ぐ人材
では、これからのメディアで稼げるのはどのような人材だろうか。本書から3つのポイントをピックアップした。
1.起業家精神
ライターは取材や文章作成能力に長けている。編集者は面白い企画の立案、コンテンツの創出に長けている。だが、その両者に欠けているのが「稼ぐ力」だ。イケダハヤトさんの言葉を借りれば「マネタイズ」である。
だからこれまでライター・編集者は、新聞社や編集プロダクションに雇われるか、あるいは仕事を受注しなければならなかった。つまりは「下請け」だ。これはフリーランスのジャーナリスト・ライターにも言える。しかし、このようなぶら下がりを続けていれば5年後には食えなくなる。いや、食えなくなるのは3年後、あるいは来年かもしれない。
そこで、生き残るために「起業家精神」が必要となる。起業家精神とは、商品やサービスを生み出して「ビジネスとして」構築するための能力と言い換えてもいい。良い記事、正論、啓蒙、生々しい現実の姿。たしかにそれらも大切だ。しかし、ボランティアではなく、事業として、ビジネスとしてメディアに携わりたいのなら、起業家精神は不可欠なのだ。
理由は2つ。「紙媒体の地位低下」と、「Web記事の報酬の低さ」である。
先行者の一例としては『ほぼ日刊イトイ新聞』の糸井重里さんや、『ケイクス』の加藤貞顕さんが挙げられる。糸井さんは元コピーライターであり、加藤さんは元編集者だ。ニュースサイトを運営しているフリーライターの中川淳一郎さんも起業家と言えるだろう。
「同情するなら金をくれ」。そう言われて、どれだけの人間が彼女に金を与えたのか。「同情するなら仕事をくれ」。メディアに携わる人間がそう言い出したら終しまいである。
2.webメディアへの理解
新聞社や雑誌、あるいは書籍の編集者などの「紙媒体」に携わっていた方々には、おそらく自負があるのではないか。「これまでメディアを牽引してきたのは俺たちだ」という自負が。たしかにその通りである。
一方、華々しいテレビやラジオの関係者も、同様に自負があろう。両者はすみ分けし、これまでのメディア業界を牽引してきた。「Webメディアがこれまでの良好な関係性をぶち壊した!」あるいはそう思っている方もいるかもしれない。
しかし、時代は戻らない。目を背けるのは自由だが、置いていかれるのは他でもない自分自身である。メディアの進歩を日々目の当たりにしながら対応しないのは、怠慢だと言われても仕方がないのだ。
「くだらない」と一蹴する前に、webメディアへの理解を深めたほうが賢明である。生き残るために。
ちなみに、前出の中川淳一郎さんが著書『ウェブで儲ける人と損する人の法則』 で提唱している「ネット文脈」、つまりはwebでウケる要素は以下の通りである。
- 話題にしたい部分があるもの、突っ込みどころがあるもの
- 身近であるもの、B級感があるもの
- 非常に意見が鋭いもの
- テレビで一度紹介されているもの、テレビで人気があるもの、ヤフート・ピックスが選ぶもの
- モラルを問うもの
- 芸能人関係のもの
- エロ
- 美人
- 時事性があるもの
- 他人の不幸
- 自分の人生と関係した政策・法改正など
あまり知的ではないかもしれないが、人間の根源的な欲求に根ざしている。これらの要素を意識しつつ、webメディアへの理解を深めたい。
3.個人としての力
現在の日本で「個人として」活躍しているのはどのような人だろうか。たとえば、前出のイケダハヤトさんや堀江貴文さんなどだ。彼らに共通しているのは「建前より本音」「客観より主観」「集団より個人」ということである。
これらの特徴が、これからのメディアにもそっくり当てはまると佐々木編集長は予言している。その根拠は、2011年7月9日号の英『エコノミスト』誌に掲載されている「未来のニュース」という特集記事だ。記事は次のように結論づけている。
これからのジャーナリズムで求められる倫理基準とは、「客観性」ではなく「透明性」だ
スピード勝負のとくダネには限界がある。一次情報を加工した二次情報もまた然り。だからこそ、筆者が「個人名で」記事を読まれるようにならなくてはならない。その流れが、Webによって日本でも浸透していく。
考えてみると、「個人メディア」という言葉が聞かれるようになったのはつい最近のことだ。ブログやソーシャルメディアの潮流が、マスメディアにも浸透すると考えるのは自然なことなのかもしれない。パソコンやタブレット端末、スマートフォンを立ち上げさえすれば、海外の情報だろうと日本の歴史だろうと、瞬時に検索することができる。個人の情報収集力は明らかに高まっているのだ。
時代とともにメディアもまた、「個」へと向かっていく。
ヒトコトまとめ
これからのメディアで稼ぐのは
経済的、空間的、時間的に自立した人材。
お付き合いありがとうございました。多謝。
<目次>
序 章 メディア新世界で起きる7つの大変化 ●大変化(1) 紙が主役 → デジタルが主役 ●大変化(2) 文系人材の独壇場 → 理系人材も参入 ●大変化(3) コンテンツが王様 → コンテンツとデータが王様 ●大変化(4) 個人より会社 → 会社より個人 ●大変化(5) 平等主義+年功序列 → 競争主義+待遇はバラバラ ●大変化(6) 書き手はジャーナリストのみ → 読者も企業もみなが筆者 ●大変化(7) 編集とビジネスの分離 → 編集とビジネスの融合 第1章 ウェブメディアをやってみて痛感したこと ●ページビューが10倍に伸びた理由 ●なぜ30代をターゲットとしたか ●ユーザー第一主義を徹底 ●速報よりも、クオリティの高い第2報 ●タイトルが10倍重要 ●ウェブは感情、紙は理性 ●余韻より断言、建前より本音 ●一貫性よりも多様性 ●集団よりも個人 第2章 米国製メディアは本当にすごいのか? ●米メディア企業の血みどろの戦い ●紙の広告が激減、ウェブ広告も伸び悩み ●紙の100万円がネットでは10万円に ●FTが切り開いた有料課金への道 ●出版社からネット企業へと変身 ●ニューヨーク・タイムズの苦悶と逆襲 ●新会長が打ち出す5つの成長戦略 ●老舗出版社 アトランティックの大変貌 ●編集とビジネスの壁、紙とデジタルの壁を打ち破る ●フォーブスの「超オープン戦略」 ●年間1000万円以上稼ぐ筆者も ●すさまじいトライ&エラー 第3章 ウェブメディアでどう稼ぐか? ●日米の業界構造の違い ●新聞はまだまだ余力がある ●雑誌にはこれから5年が正念場 ●ウェブメディアの4タイプ ●8つの稼ぎ方:広告から、ダイエットまで ●なぜネット広告は儲からないのか ●どうすればウェブ広告は儲かるのか ●広告を面白くする。それに尽きる ●ブランドコンテンツという新マーケット ●広告頼みにリスクあり ●有料化のための3つの条件 ●有料化に成功するの日本のメディアは? ●ヒントはネット企業にあり 第4章 5年後に食えるメディア人、食えないメディア人 ●20代はまず紙で基礎体力を ●30代こそネットで挑戦すべき ●40代はなんとも中途半端 ●50代には30代以下を登用してほしい
<著者>
佐々木紀彦
1979年福岡県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。2009年7月より復職し、『週刊東洋経済』編集部に所属。2012年11月、「東洋経済オンライン」編集長に就任。リニューアルから4カ月で5301万ページビューを記録し、同サイトをビジネス誌系サイトNo.1に導く。
<類書>
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