表現が文章の良し悪しを決める。
そう言っても過言ではない。豊かな表現でつづられた文章はそれだけで美しいものだ。文学的な評価は表現や文体によるところが大きいとさえ思う。
もっと言えば、一般人と文筆家をわけるキーポイントとなるのも「表現力」にあると考えて良い。内容の良し悪しは経験や想像力に大いに影響される。ただ、特殊な経験と卓越した想像力を備えた者が優れた作家になれるのではない。
表現豊かな文章力が欠かせないのだ。
よくわからない文学的評価
誤解を恐れず申し上げれば、私は「文学的評価」というものがよくわからない。
むしろ懐疑的ですらある。それが単純に私の「能力的な未熟さ」にあるのであればよいが、ことはそう単純にはいかない。なぜなら能力の有無に関わらずに「楽しめる」「夢中になれる」ものこそが本物の文学だと思うからだ。
一部のマニアックな人間だけが暗黙の了解のなかでわいわいがやがやと楽しむものの何が「良いもの」なのだろう。 「君はわかっていないな」などと、あたかも自分には文学的素養があるかのような言質で一般人を排斥する作品の何が優れているというのか。
たとえ中学生でも小学生でも、アメリカ人でも中国人でも、老若男女すべてが楽しめるものが本当の文学であると信じたい。過去を無視するのは論外だが、過去を知ったうえでの謀反ならそれは革命にもなり得る。
誰にでもわかる文章を。読む人全てに伝わる文章を。そして、人の心を揺るがせたら……。そうありたいものだ。
心を揺るがす文章を書くために
『早大院生と考えた文章がうまくなる13の秘訣』には表現豊かな文章を書くための秘訣が記載されている。以下、ポイントをピックアップした。
1.体験をベースに
言葉は情報や思いを伝達するためのツールである。
文章もまたしかりだ。言葉は文章を書くためにあるという前提にたってしまうと、伝達するためのツールであるという本質を見失ってしまう。結果、やれ文体だとか文章リズムにばかり気を取られて、中身の無い文章になってしまうのだ。
小学生の絵日記や無味乾燥な新聞記事のような文章を書くのでなければ、意識すべきは「体験」である。この世に二人としてまったく同じ体験をしている人間はいない。同じ体験でも吸収の仕方が違う。思いが違う。ゆえにそれがオリジナリティとなる。
体験をベースとした文章には「真新しいもの」を含む可能性がある。そこに特殊な視点が加われば、それだけで作品へと昇華する。自分自身とよく対話してみると良い。
記憶と入り混じった体験の数々は、ネタの宝庫だと気がつくだろう。
2.もの言わぬ物に語らせる
文章の主体は「人+もの」である。
これが動物や植物に向けて書かれたものならともかく、読み手もまた人間なのだ。人が主体とならない(あるいは登場しない)文章にドラマはない。ドラマが「人によって書かれた」ものである以上。
そして人が主体だからこそ「もの」が生きてくる。ものは言葉をもたない。ただし思いはある。魂もあるかもしれない。われわれに対して、われわれ以上に思うところがあるかもしれない。想像以上に思慮深いかもしれない。
ものに語らせるのだ。言葉をもたないからこそ与えてあげるのだ。ものを描くのではなく、ものに語らせるという姿勢で書くことにより、描写がより生き生きとしたものになる。ときにしゃべりすぎるくらいに。
書き手は饒舌である必要はないのだ。
3.共感がわかりやすさを加速する
わかりやすさとはつまり共感である。
ときに「言いたいことはわかるが……」というセリフを聞くことがあるが、それは本当にわかったうちに入らない。ただ理解しただけだ。理解したけど共感できない文章は釈然としない。わからないからだ。
なんとも禅問答のような話だが、つまりは「到達点に物事の原則がないから共感されない」ということである。「明日を捨てても良い、なぜなら人は永遠に生きるからだ」という文章は、内容を理解することはできるが、わからない。
共感をうまない名作もあるにはあるが、たいていは時代背景によって、あるいはおかれている状況によって特殊な感情が形成されている場合だ。裏にある事情を知ることで、不可解から共感がうまれる。「もし私がその時代に生きていれば、もし私がそこにいれば……」。
そこで読者は感情を激しく揺さぶられることになる。
ヒトコトまとめ
表現豊かな文章は
「体験」をベースに、「描写」に力を入れ、「共感」を誘うように、書く。
お付き合いありがとうございました。多謝。
<目次>
文章表現の基本「人プラス物」
何を描写し、何を説明しないか
文章をわかりやすくする工夫
情景描写と心模様
文章は体験がすべて
書きたいことの組み立て方
人物・感情表現法
五感と比喩
自分自身をどう表すか―書き出しから終わり方まで
間と推敲
「書く」より「聞く」
事実から真実へ
文章力がつく読書術
<著者>
近藤 勝重
早稲田大学政治経済学部卒、1969年毎日新聞社に入社。論説委員、『サンデー毎日』編集長を歴任。現在、専門編集委員として『毎日新聞』夕刊編集長を兼務。コラムやルポに定評があり、早大のジャーナリズム大学院に出講、「文章表現」を教えている。
<類書>
PHP研究所
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幻冬舎
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