「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ
個人的には、失敗から何かを学ぶというのが好きではありません。負のエネルギーから得られるものは、結局のところ負の教訓だと考えるためです。
ただ、だからと言って失敗を無視して良いわけではありません。反省しなければ、同じ失敗をくり返してしまうだけでしょう。その点『失敗の本質』が優れているのは、感情論を極力排して、失敗を冷静にそして客観的に分析しているところにあります。
そして本書『「超」入門 失敗の本質』は、よりビジネスパーソン向けに、噛み砕いて解説してくれています。
7つの敗因
本書では、『失敗の本質』から次の「7つの敗因」が導き出せるとしています。
- 戦略性:戦術・主義を超えるもの
- 思考法:練磨と改善からの脱却
- イノベーション:既存の指標を覆す指標
- 型の伝承:創造的な組織文化へ
- 組織運営:勝利につながる現場活用
- リーダーシップ:環境変化に対応するリーダーの役割
- メンタリティ:「空気」への対応とリスク管理
詳しい内容は割愛するとして、特に注目したい3つのエッセンスを以下にピックアップしました。ぜひビジネスの現場で活用していただければと思います。
今日から使える『失敗の本質』3つのエッセンス
1.戦略の重要性を知る
日本が配線した理由の一つに「体験的学習の踏襲」があります。
つまり、過去の成功体験にしがみついて、それをくり返すことで一時的な戦果をあげていただけにすぎず、長期的な指標が見えていなかったということです。成果をあげるための長期的な指標こそ「戦略」ですね。
たとえば、目の前の敵を倒すために地形を利用したり陣形を工夫したりする「戦術」は、ひとつの戦闘に勝利するためには役立ちますが、戦争そのものに勝つためには不十分です。
日本は優れた戦術を数多く持っていたのですが、戦争に勝つための全体戦略は見えていなかったのです。だからこそ、無意味な勝利を数多く収めておきながら、結果として敗戦してしまったのですね。
ビジネスの現場でも同様の事例があります。
もしあなたがスーパーのオーナーで、近隣店舗に勝つために連日の価格競争をしかけとしましょう。薄利が続きながらもあなたの店舗はなんとか勝利し、近隣店舗は閉店しました。しかしその後、近所に安売りで有名な大手スーパーが参入してきました。体力的にも勝てるわけもなく、結果としてあなたの店舗も閉店に追い込まれてしまいます。
これは、目の前の敵を倒すことばかりに気を取られ、自店の強みや差別点を確立できなかったことに問題があります。戦術を重視しすぎて戦略を甘く見てしまったのです。
「鮮度が良い」「接客が抜群」「サービス精神が旺盛」「地元住民に指示を得ている」「特化日は必ず超満員になる」など、どんな競合が現れても負けない戦略を構築していれば、生き残ることができたかもしれません。
2.既存の枠組みを超えた革新性を追及する
2つ目のポイントは「革新性」です。
それもただ新しいものを求めるのではなく、「既存の枠組みを超えた」革新性を追求することが重要です。
日本軍は「優れた軍人の養成」によって戦闘を有利に運ぼうとしました。つまり、武器は既存のものを使用し、人を鍛えることによって敵に勝とうとしたのです。反面、アメリカ軍は「誰にでも扱える武器の開発」によって、戦争の勝利を目指しました。
もし仮に日本軍とアメリカ軍の人員数が同じだったらどうなるでしょうか? 一方は、時間をかけて一部の優れた人員を獲得した日本。他方は、同じ時間で誰にでも扱える優れた武器を開発したアメリカ。結果は火を見るよりも明らかですね。
このことは双方の国民性にも関わってくることなのですが、日本は練磨や改善によって「達人」を生み出すことに秀でているのですが、アメリカは既存の戦闘を無効化する「新しいモデル」を生み出すことに秀でていたのです。
ビジネスの現場でも同じようなことが言えるのではないでしょうか。たとえば音楽プレイヤー。既存のウォークマンにすがって、ただただ性能を良くしようとした日本企業。一方、音楽をデータとして持ち運べるよう「枠組みを超えた」開発を成し遂げたアメリカ企業。
今後はテレビ市場でも、同様の結果になるような気がしてなりません。
3.イノベーション(創造的破壊)を創造する
3つ目のポイントは「イノベーション」です。
イノベーションという言葉を直訳すると「技術革新」となりますが、意味合いからすると「創造的破壊」の方がしっくりくるような気がします。創造的破壊とは、勝利のための指標そのものを変更(破壊)する開発(創造)のことですね。
アメリカ軍がおこしたイノベーションを「サッチ・ウィーブ戦法」でみてみましょう。次の3ステップを踏んでいます。
- 零戦の強みを知る(指標の発見)
- その強みを無効化する(指標の無効化)
- 具体的な作戦に落としこむ(新たな指標の開発)
まず、零戦の強みが「旋回性能」にあることを発見します。つまり、優れた零戦の性能によって、アメリカ機は後ろを取られやすいということですね。それを回避するためにアメリカは二機一組の「連携戦」を考案しました。これにより、零戦の強みを封殺します。あとは、連携戦を周知させ、実際の戦闘を有利に運びます。
このように、創造的破壊とは、既存の指標を無効化することができるのです。どれほど零戦が優れた性能を誇っていたとしても、新しい指標の開発によって、それが無意味になってしまうのですね。これがイノベーションです。
ここで日本軍がすべきことは、性能にこだわらず、戦術を変えることだったでしょう。しかし日本軍にはイノベーションを生み出すことができませんでした。
ビジネスにおいてもイノベーションが重要なポイントであることは言うまでもありません。それは米デューク大学の研究者キャシー・デビッドソン氏の次の言葉にも表れています。
「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう」
イノベーションは、旧来のものを破壊し、新しいものを生み出すのです。
ヒトコトまとめ
これからのビジネスマンに必要なのは「戦略」「革新性」「イノベーション」
お付き合いありがとうございました。多謝。
<目次>
目次
●序章 日本は「最大の失敗」から本当に学んだのか?
ざっくり知っておきたい戦史
失敗例としての「6つの作戦」
●第1章 なぜ「戦略」が曖昧なのか?
01 戦略の失敗は戦術では補えない
02 「指標」こそが勝敗を決める
03 「体験的学習」では勝った理由はわからない
04 同じ指標ばかり追うといずれ敗北する
●第2章 なぜ、「日本的思考」は変化に対応できないのか?
05 ゲームのルールを変えた者だけが勝つ
06 達人も創造的破壊には敗れる
07 プロセス改善だけでは、問題を解決できなくなる
●第3章 なぜ、「イノベーション」が生まれないのか?
08 新しい戦略の前で古い指標は引っくり返る
09 技術進歩だけではイノベーションは生まれない
10 効果を失った指標を追い続ければ必ず敗北する
●第4章 なぜ「型の伝承」を優先してしまうのか?
11 成功の法則を「虎の巻」にしてしまう
12 成功体験が勝利を妨げる
13 イノベーションの芽は「組織」が奪う
●第5章 なぜ、「現場」を上手に活用できないのか?
14 司令部が「現場の能力」を活かせない
15 現場を活性化する仕組みがない
16 不適切な人事は組織の敗北につながる
●第6章 なぜ「真のリーダーシップ」が存在しないのか?
17 自分の目と耳で確認しないと脚色された情報しか入らない
18 リーダーこそが組織の限界をつくる
19 間違った「勝利の条件」を組織に強要する
20 居心地の良さが、問題解決能力を破壊する
●第7章 なぜ「集団の空気」に支配されるのか?
21 場の「空気」が白を黒に変える
22 都合の悪い情報を無視しても問題自体は消えない
23 リスクを隠すと悲劇は増大する
おわりに――新しい時代の転換点を乗り越えるために
<著者>
鈴木博毅(すずき・ひろき)
1972年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒。ビジネス戦略、組織論、マーケティングコンサルタント。MPS Consulting代表。大学卒業後、貿易商社にてカナダ・豪州の資源輸入業務に従事。その後国内コンサルティング会社に勤務し、2001年に独立。戦略論や企業史を分析し、負ける組織と勝てる組織の違いを追求しながら、失敗の構造から新たなイノベーションへのヒントを探ることをライフワークとしている。わかりやすく解説する講演、研修は好評を博しており、顧問先にはオリコン顧客満足度ランキングでなみいる大企業を押さえて1位を獲得した企業や、特定業界での国内シェアNo.1企業など成功事例多数。ガンダムをビジネスに置き換えて解説したガンダム・ビジネス本シリーズは、楽しく組織論を学べる書籍として大いに話題を呼ぶ。著書に『ガンダムが教えてくれたこと』『シャアに学ぶ逆境に克つ仕事術』(共に日本実業出版社)、『超心理マーケティング』『儲けのDNAが教える超競争戦略』(共にPHP研究所)がある。
<類書>
中央公論社
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日本経済新聞出版社
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