“すぐに使える”行動経済学の入門書|『行動経済学の使い方』大竹文雄

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行動経済学の使い方 (岩波新書 新赤版 1795)

行動経済学の使い方 (岩波新書 新赤版 1795)

 「行動経済学に関するいい入門書はないだろうか。とくに、学術的な内容に終止するのではなく、またおもしろいだけでなく、十分に実践的なもので」。

 もし知人からそのように相談されたら、私は迷わず本書を勧めたい。これほどわかりやすく、明快で、かつ無駄のない入門書は他にない。

 そう断言できるほどの良書である。

 行動経済学関連の書籍と言えば、私は、その代表作である『ファスト&スロー』や『予想どおりに不合理』、さらには『影響力の武器』も読んでいる。

 いずれもエッジが効いており、楽しみながら読むことができた。だが一方で、問題もあった。それは、「だから、どうすればいいんだ」ということであった。

 なるほど人間は、経済学で規定されているように、合理的な存在ではなく、不合理な行動をとるときがある。しかもその不合理性は予想できるようだ。

 私は、それらの書籍を読むたびに、「ああ、おもしろかった」と思うとともに、できのいい映画を見終わったあとのように満足して眠りについた。

 しかし、あとには何も残らなかった。

 その点、本書は、『実践 行動経済学』に通底するものがある。つまり、実践することに主眼が置かれているのだ。

 『実践 行動経済学』の著者であるリチャード・セイラーは、シカゴ大学の経済学者であり、2017年にノーベル経済学賞を受賞している。

 セイラーと言えば、映画『マネー・ショート』への出演が記憶にあたらしい。

 そこで彼は、バスケットのシュートを例にとり、人は、いま起こっていることが将来も続くと錯覚しがちだと解説した。合成債務担保証券(合成CDO)を説明するシーンで。

 事実、堅調だと思われていたアメリカの不動産市場が2008年に崩壊したことは、ご存知のとおりである。

 とくに本書では、序盤で「プロスペクト理論」「現在バイアス」「社会的選好」「ヒューリスティックス」という、行動経済学の基礎である4つの観点を解説している。

 そのうえで、金銭的なインセンティブや罰則付きの規制を使わずに人々の行動を変える「ナッジ」について紹介している。実にわかりやすい。

 将来が不安を感じている方は第二章の「老後貯蓄の意思決定」を、働き方改革の興味がある方は第六章を、医療や公共政策に興味がある方は第七章や第八章だけでも目を通してみてほしい。

 読み終えたあと、「ああ、おもしろかった」という感想だけに留まらず、現実的な“知恵”が残ることだろう。

行動経済学の使い方 (岩波新書 新赤版 1795)

目次

第1章 行動経済学の基礎知識
1 プロスペクト理論
リスクのもとでの意思決定/確実性効果/損失回避/フレーミング効果/保有効果
2 現在バイアス
先延ばし行動/コミットメント手段の利用
3 互恵性と利他性
社会的選好/互恵性
4 ヒューリスティックス
近道による意思決定/サンクコストの誤謬/意思力/選択過剰負荷と情報過剰負荷/平柊への回帰/メンタル・アカウンティング/利用可能性ヒューリスティックと代表性ヒューリスティック/アンカリング効果/極端回避性/社会規範と同調効果/プロジェクション・バイアス

第2章 ナッジとは何か
1 ナッジを作る
軽く肘でつつく/行動の特性を考える/行動変容を本人が望んでいるか/ナッジの選び方
2 ナッジのチェックリスト
Nudges/EAST/MINDSPACE
3 ナッジの実際例
老後貯蓄の意思決定/自然災害時の予防的避難/ナッジは危険なのか?

第3章 仕事のなかの行動経済学
1 三つの例から
バイトのシフトをどう入れるか/タクシー運転手の行動予測/行動経済学で解釈すると/プロゴルファーの損失回避
2 ピア効果
優秀な同僚が入ってきたら/スーパーマーケットのレジ打ち/競泳のタイム決勝

第4章 先延ばし行動
1 賃金について考える
参照点による効果/伝統的経済学による年功賃金の説明/行動経済学による年功賃金の説明
2 バイアスに着目する
失業期間を短くする/長期失業を防ぐナッジ/社会保障給付申請の現在バイアス/長時間労働と先延ばし行動

第5章 社会的選好を利用する
1 贈与交換
贈与交換で生産性は上がるか/負の贈与の影響/贈与のイメージを意識させる
2 昇進格差はなぜ生まれる?
競争選好に男女差はあるか/マサイ族とカシ族での実験
3 多数派の行動を強調する
女性の取締役を増やすナッジ/無断キャンセルを減らすナッジ

第6章 本当に働き方を変えるためのナッジ
1 仕事への意欲を高める
際限なく続く仕事/「シーシュポスの岩」の実験/意味のある仕事
2 目標と行動のギャップを埋める
達成できない目標/実行計画を書き出す/量ではなく時間で/合理的行動の落とし穴/習慣化できるルールを作る/次善の策がベストの策

第7章 医療・健康活動への応用
1 デフォルトの利用
ナッジで変える健康活動/大腸がん検診の受診率向上ナッジ/ワクチン接種率の向上ナッジ/オプト・イン/終末期医療の選択
2 メッセージの影響を考慮する
利得フレームと損失フレーム/治療法の説明
3 成果の不確実性を考慮する
ダイエットのナッジ/ジェネリック薬品への切り替え
4 臓器提供のナッジ
イギリスでの実験/日本での実験

第8章 公共政策への応用
1 消費税の問題
重く見える消費税負担/同じ税負担でも消費行動が変わる/誤計算バイアス/軽減税率はなぜ好まれるのか/軽減税率は補助金と同じ/軽減税率の行動経済学
2 保険料負担の問題
一般の人の理解/伝統的経済学での理解/現実はどちらか
3 保険制度の問題
公的年金・公的健康保険の必要性/モラルハザード/法案提出と損失回避/少数派として意識させる
4 O型の人はなぜ献血をするのか
血液型性格判断/献血行動と血液型/血液型の特性に着目する

著者

大竹文雄(おおたけ ふみお)
1961年京都府生まれ.1983年京都大学経済学部卒業,1985年大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了,1996年大阪大学博士(経済学).大阪大学社会経済研究所教授などを経て,
現在―大阪大学大学院経済学研究科教授
専攻―行動経済学,労働経済学
著書―『日本の不平等』(日本経済新聞社)により2005年日経・経済図書文化賞,2005年サントリー学芸賞,2005年エコノミスト賞を受賞.ほかに『経済学的思考のセンス』『競争と公平感』『競争社会の歩き方』(いずれも中公新書),『経済学のセンスを磨く』(日本経済新聞出版社),『医療現場の行動経済学』(平井啓との共編著,東洋経済新報社)などがある.2006年日本経済学会・石川賞,2008年日本学士院賞受賞

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