【短編小説】『現代の経営』P.F.ドラッカー

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【短編小説】『現代の経営[上]』『現代の経営[下]』P.F.ドラッカー 

 ブームは来た。しかし、波に乗れない。彼の名前はA。お笑いトリオ「トルクチューン」のリーダーで、唯一のツッコミだ。残りの2人はボケ。しかも、ほどほど天然に近いボケである。


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 ここ数年。世間はお笑いブームにわいている。テレビはどのチャンネルをつけても芸人だらけ。しかも、若手芸人が多数出演している。昔なら、陽の目を見ない漫才師はたくさんいたのに。

 それが今ではどうだ。ちょっとおもしろいネタがあれば、あらゆるテレビ局から引っ張りダコである。「バブルだ。これはお笑いバブル」。それがAの見立て。「どうせいつまでも続かないさ」。

 しかし、トルクチューンもデビューしてから5年。3人の年齢は30代の中頃を過ぎ、小ボケ担当のBはもうすぐ40だ。大ボケ担当のCは最年少だが、すでに33。Aは37歳。いいキリである。

 「そろそろ見切りをつけるべきか……」。Aは、何度そう考えたことだろう。ただ、同じ時期にデビューした周囲の奴らがテレビに出ているサマを見て、このまま引き下がりたくないという思いも強い。

 そんなある日。いつものグダグダなネタ合わせを終え、早々に帰路についたAの足は、なぜか駅前の裏通りに向いていた。普段なら、選択しそうもない道。見慣れぬ風景。すでに22時をまわっている。

 「気分転換を求めているのだろうか」。何も考えずに歩いていたAは、ふと、自分の不甲斐なさに対し自嘲的に笑っていた。こんな裏道を歩いている暇など、どこにもないはずだが……。

 商店街の店々は、すでにシャッターを下ろして静まり返っていた。ただ1軒を除いて。「こんな店あったっけ?」。口をついて出た言葉は、現実味のない風景を前にして空に消えた。

 そこにあったのは、夜中だというのに煌々と明かりをともしている本屋だった。なぜ一目でそこが本屋だとわかったのか、Aには説明できない。目視で店内を知るすべはない。場末のBARのように。

 ギイイイイイ。おもむろにドアを開ける。すると中は、一面が本だらけだった。ところ狭しと並ぶ書籍の数々。天井から床まですべて。「どういう仕組みになっているんだ、ここは。一体……」。

 コツ、コツ、コツ。気味が悪いくらいに静かな店内に響く足音。Aは身構えた。「誰かそこにいるのか!?」。返答はない。さすがに気持ちが悪くなり、帰ろうとした瞬間、声が聞こえた。

「……ちしていました」
「えっ!?」
「お待ちしていました。Aさま」
「なぜ、アンタはオレの名前を知っているんだ?」

 Aの質問には答えず、そのおじいさんともおばあさんともつかない人影が差し出したものは、カビ臭い書籍だった。

「どうぞコレを」

 無意識に受け取るA。後ずさりしながら、逃げるようにその場を後にした。家に帰る気にもなれず、Aは公園で先ほど受け取った書籍を眺めていた。タイトルは『現代の経営[上]』『現代の経営[下]』P.F.ドラッカー

 「タダで受け取っちゃったけどいいのかな。まあ、向こうが渡してきたんだし、ボロの古本だからいいんだろうけど……」。パラパラとページをめくる。めくる。めくる。めくる……。

 日頃、本を読まないAだが、そのときはなぜか夢中になって『現代の経営[上]』『現代の経営[下]』を読んでしまった。そこに自分たちを売れっ子にするためのヒントが隠されているような気がしてならなかったからだ。

 とくに、くり返し読んだAが、そのままスマホでメモした項目は次の3つ。

・顧客の創造
・経済効果
・個人に対して「志」「努力」「目標」「利益」「チームワーク」を提供

 そして、そのために必要なのが、次の3つのマネジメントだ。

1.事業のマネジメント(マーケティング、イノベーション)
2.経営管理者のマネジメント(会社の資源を生かす)
3.人と仕事のマネジメント(人と仕事を管理する)

 「トルクチューンが売れっ子になるかどうかは、オレのマネジメントにかかっている」。そう革新したAは、自宅に帰ったあとも、ベッドの中でくり返し『現代の経営[上]』『現代の経営[下]』を読んだ。

 数日後、AのBやCに対する態度は見違えるように変わった。ともに目標を共有し、正しい努力をうながし、その結果、いかに利益をあげられるかを説いた。「オレたちならやれる!」とも。

 最初は半信半疑だったBとCも、やがてAの熱意にほだされるようになった。そして、今までの宙ぶらりんな態度を改め、これが最後のチャンスと本気でお笑いに取り組むようになったのだ。

 しかも、やるべきことは明確である。Aが与えてくれる方針、「集客から創客」「マネタイズ(収益化)」「チームワークによる相乗効果」は、お笑いの楽しさを思い出させたくれた。

 ネタ合わせにも熱がこもる。ひとつひとつのコントに全力投球。それこそ、終わった後は3人ともヘトヘトになってしまうが、一緒に飲むビールは格別だった。まるで昔に戻ったみたいに。

 そんな3人の頑張りを見て、担当マネージャーの営業にも気合が入る。Aの提案で行っていた動画共有サイトへのネタ投稿や、ブログマーケティングも徐々に盛り上がってきた。ファンも増えている。

 世間は、彼らの快進撃を放っておかなかった。ネットラジオ、動画配信サイトへの出演依頼も増えてきた。「これからだ。これからは、オレたちの時代がはじまるんだ!」。Aは確信した。

 ――2年後。トルクチューンは地方にあるデパートの屋上にいる。いわゆる“営業”だ。お笑いブームは去った。トルクチューンが勢いを伸ばすのと比例するかのように……。

 Aは、もはや子どもすら笑わなくなったネタを披露しつつ、同時に考えていた。

 「生まれ変わったら、ちゃんと勉強して、会社を経営しよう」。

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