求められるのは“考えることから逃避できる”コンテンツ|娯楽・宗教・公務員に共通するもの

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書店にはたくさんの新刊が並んでいます。聞くところによると、1日で約200冊もの本が出版されているそうですね。ただ最近は、そういった真新しい本に触手がわかなくなってきました。その理由をちょっと考えてみたんです。

すると、先日『世界のエリートに読み継がれているビジネス書38冊』 について書いたコチラの記事が、おかげさまでよく読まれているのですが、その理由と同じじゃないかと思ったんです。つまり、キラキラした真新しいものよりも、“より確からしいもの”が求められているのではないか、ということ。ボクからも、そして世間もまた。


<娯楽・宗教・公務員に共通するもの>

では、なぜ“より確からしいもの”が求められているのか。それは、人生における選択の自由度が増しているからだと思います。1億総中流社会が終わり、格差社会が到来。転職、起業、独立、自営業、フリーランスなど、働き方ひとつとってみても選択肢はたくさんあります。

このような状況においては、かつてのように、何も考えずに人生を謳歌することは難しい。つねに、目まぐるしく変わる状況に対応していかなければなりません。ただ、それは本当に疲れること。ストレスにさらされ、考え続け、さらには行動し続けなければならないのは大変です。

高度成長期を経て、生活が豊かになり、やがて自由を求め、自由をある程度謳歌したボクらは、もしかしたら、自由に疲れてしまっているのかもしれません。「考え続けよう」「行動し続けよう」「ストレス社会を乗り切ろう」。巷にあふれるビジネス書は、そのように鼓舞してきます。

一定の正解があった学生時代はまだ良かったのです。しかし、社会に出てからは正解なんてありません。だからこそ、つねに考えて、行動して、検証して、また考えて行動してをくり返さなければならない。そうした生活に疲れて、原理原則にすがりたくなるのは、ある意味当然のことです。

そう考えると、テレビも、ゲームも、スマホも、映画や音楽やスポーツや、その他多くの娯楽、書籍ももちろんそうですが、そういったものは「考えることから逃避するため」に求められているのかもしれません。あるいは宗教にすがたったり、公務員を志望する学生たちの動機もまた。

ここで、同じような思想で書かれている文章を2つほど引用します。ちょっと長いですがお付き合いください。まずは小熊英二さんの『インド日記』 から。

近代化とともに社会が複雑になり、頼るべき価値観がわからなくなるということは、時代とともに進行しているだろう。昔なら、インドでは「ガンディーとネルーの理想」とか、大日本帝国では「忠君愛国」とか、それさえ述べていれば「しっかりした青年だ」と評価されるような固定した枠組みがあった。いまの社会においては、それは期待できないのだ。だから依拠できる枠組みをもとめて、原理主義やナショナリズムに頼る人びとも現れてくる。価値観の多様化、出世主義の流布、核家族化、そして原理主義の台頭といった現象は、表裏一体のものなのだろう。

(強調筆者)

 次に、ボリス・パステルナークさんの『ドクトル・ジヴァゴ』 から。

とつぜん、なにもかもが変わった――世の中の空気も、人びとのモラルも。なにを考えたらいいのか、誰の話に耳を傾けたらいいのかがわからなかった。まるで幼児のように、これまでずっと手を引かれて生きてきたのが、とつぜん、独りぼっちにされて、自力で歩くすべを身につけなければならないかのようだった。まわりには、誰もいなかった。家族も、その思慮分別にたいして敬服していた人々も。そんなとき、人は自分自身をなにか絶対的なもの――人生とか、真理とか、美とか――に献身したいという気持ちになる。人間が作ったルールに代わって、見向きもしないできたその絶対的なものに支配されたいという気持ちになるのだ。昔なつかしい平和な日々、いまや崩壊して永久に過去のものとなった昔の生活、あのころよりももっと徹底的に、もっとしゃにむに、なにかそんな究極の目的に身をゆだねる必要があった。

(強調筆者)

 よくよく考えてみると、つねに考え続けなければならないというのは、まるでゴールの見えないマラソンをしているかのようなものですよね。なら、ゴールかどうかわからないけれど、それらしいものを見つけて腰をすえてしまったほうがラクはラクですよ、やっぱり。

きっと、本当のマラソンとか、トライアスロンとか、あるいは禅なども、同じ目的なのではないでしょうか。正解らしいものを教えてくれたり、考えなくてすむような環境を与えてくれるなど、考えることから逃げられるコンテンツは、これからますます求められるのかもしれません。

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