『ジョバンニの島』を見て考える“友好”と“作品のつくり方”

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 昨日公開した映画『ジョバンニの島』を見た。

 私は映画評論家ではないので“作品そのもの”の評価は他にゆずる。ただ、二度ほど涙したことは事実だ。いつの時代も人は「記憶」に生き、そして記憶の中には「人と人とのふれあい」がある。良いものだ。一緒に見た友人は「イメージと違った」とボヤいていたが。彼は「色丹島」についての詳しい解説を求めていたそうだ。

 映画がはじまる前に私は「日本人がつくった映画だから日本人の主観が入っているのでは?」と思い、意識して見ることにした。どうやら杞憂だったようだ。上手に消している。日本人の主観(つまりは「ロシア人は悪者だ」という敵視)を消そうとする努力が作品の質には影響していない、と言えば嘘になるが。


「友好」と「作品のつくり方」

 映画の舞台は「色丹島」。日本とロシアが領土問題でもめている島だ。

 終戦後、疲弊している日本を襲ったのはロシアだった。そして標的にされたのが色丹島。もっと言えば「色丹島に住む日本人」だ。そこで起こったことを実話を元に構成している。

 どちらかと言うと解説的に領土問題を語るのではなく、ヒューマンドラマが主体となっている。おそらく「もともとは日本の領土だった」ということをやんわり表現し、だから……という主張があると感じた。この時期の公開は、五輪が「ロシアのソチで」開催中なのも考慮しているのだろうか。

 冒頭でも述べたとおり、内容には言及しない。私が『ジョバンニの島』を見て考えたことは「友好」と「作品のつくり方」だ。

「友好」について

 領土問題について私が言える極論は次の2点だ。

  1. 領土問題が解決することは永遠にない
  2. 問題を友好の証に変えるという方法論を採用すべき

 ここにリンゴが一つある。だが兄弟は二人だ。包丁はない。わける手立てがない一つのリンゴを二人で取り合えば、そこに妥協がなければ、リンゴはただ腐るだけだ。解決はない。それが「極論1」の理由。

 映画では、父親と二人の兄弟が離れ離れになり、ロシアの収容所で会うことはできるのだが、その後再会出来たかどうかにはふれていない。つまり「会えた」という事実を盛り込まないことによる「会えなかった」の暗示である。リンゴは腐ってしまったのだ。

 政治家は時代の流れとともに世代交代すれば良い(現実的には世襲だが)。しかし、問題となっている島に住む人はいずれ死ぬ。「最良の解決策を模索してる間は時が止まる」ということはない。まさか「すでに誰も生き残っていない」という解決法を、両国が暗黙の了解としているのではあるまい。

 リンゴが腐る前に“一口ずつかじりあって”はいかがか。私は単純にそう考える。領土問題を抱えている島を「両国の友好の証」として利用するのだ。ロシア人と日本人ならビザもパスポートも要らない島に。ハーフもとうぜん生まれよう。ロシアと日本の子日本とロシアの子、だ。

 もちろん、それが現実的に「実現しにくい」ことだとは理解している。タブーと言っても良い。問題なのは「本気で友好を模索している政治家がいない」ということだ。保身や身分を重視するならサラリーマンでもやれば良い。ささやかな幸せは馬鹿にできない。本当に。

「作品のつくり方」について

 この映画の制作は『攻殻機動隊』を手がけている「プロダクション・アイジー」によるものだ。根っからの攻殻機動隊ファンである私は、「知的さを楽しむ」要素がこの映画にも盛り込まれているのでは、と密かに期待していた。果たしてそうだった。

 タイトルにもあるように、本作は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』をモチーフとしている。私もさっそく青空文庫でダウンロードした。そこで思ったのが、攻殻機動隊の笑い男編もまたJ・D・サリンジャーの『笑い男』や『ライ麦畑でつかまえて』をモチーフにしているということだ。

 ストーリーの構成やセリフまわしなど、優れた文学から得られるものは数多くある。そういった優れた文学を“二次的に”利用することで、より良い作品が作れるのではないか。語弊があるかもしれないが。

 つまり、小説でも映画でも、何かしら作品をつくろうと思ったら「モチーフとなる文学」を決めてからにしてはどうか、ということだ。アプローチとして。それと音楽。村上春樹の『ノルウェイの森』は、その名の通りビートルズの同名の曲が元となっている。音楽は記憶を想起させる。それが作品にも活かされる。

まとめ

 妥協のない解決策など無い。また、確実に売れる作品など無い。

 しかし、友好と良質な作品は実際に存在する。そこに嘘が無ければ。

お付き合い、ありがとうございました。多謝。

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